
転職と似ていると思うことが、意外かもしれませんが、引っ越しです。両者はまったく別の分野ではありますが、構造的には非常に似ています。引っ越しに置き換えて考えてみると、意外にも転職のヒントが見つかったりします。今回は転職と引っ越しの比較で、転職のヒントを探ります。
転職と引っ越しは探し方は同じ
引っ越しでは、まず不動産のサイトから、好みの物件を探して、良さそうな物件が見つかれば、不動産会社に問い合わせます。物件が空室であれば、内見のために不動産会社に行きます。だいたい内見のアポをとると、ついでに近隣の似た条件の物件をいくつか提案してくれますので、ついでに数件内見しに行きます。先生が気に入って、条件も折り合えば、申し込み、審査が通ればOKです。
転職でも、まず医師求人会社に登録すると、求人が検索できるようになるので、先生好みの求人を探します。気になった求人があれば、求人会社に問い合わせると詳細な情報を送ってくれます。そこでエージェントが先生の希望を伺い、問い合わせた求人に近い条件の求人の情報も併せて教えてくれます。チェックした求人の条件が合いそうであれば、その求人に面談に行き、内定が得られれば転職という流れです。
上記のようにみると、全く畑違いの分野ではありますが、意外に共通点があります。本質的には不動産も転職も、何かを仲介するマッチングビジネスです。不動産の場合は、大家さんと借り主を、医師転職の場合は先生と医療機関を仲介することで、ビジネスが成り立っています。
仲介手数料
転職も不動産も、仲介手数料が支払われることでビジネスが成り立っていますが、転職の場合は、先生が負担する必要はなく、転職先の医療機関が支払ってくれます。この点は先生にとっては有利です。
しかしここで注意点がひとつあります。それは転職業界は基本的に成果報酬制度であるということです。つまり先生が求人に問い合わせるだけでなく、実際に転職しないと求人会社に報酬が発生しないということです。先生の話を聞いて、求人を紹介するだけでは、転職エージェントとしてはタダ働きになってしまいます。
そのため転職エージェントとしては、なんとか自分が仲介者となって、先生の転職を成功させたいという意図があります。話を聞くだけで終わってしまったり、他の会社に取られてしまうことは何としても避けたいわけです。ここのところを理解しておくと、転職エージェントとの関わり方や距離感がつかめてくると思います。転職エージェントは基本的に自社の求人での転職を、先生におすすめするということです。その求人が先生にとって最適かどうかは、残念ながら最重要ではないということです。
転職成功とは?
ちなみに先生にとっての「転職成功」の定義はいかがでしょうか?もちろん個別のケースで変わってくると思いますが、今より高収入の求人に転職する、当直なしの仕事に移る、今よりも家族との時間を確保する、などあると思います。いずれにしても、先生の条件に合う仕事を見つけて、長く勤め上げることではないでしょうか?
しかし転職会社にとっての「転職成功」は先生と少々異なります。転職会社にとっての成功は、「自社から先生を仲介して、その転職先で1年以上勤めること」になります。非常にドライなことを言えば、転職後の先生のことは、あまり重要ではありません。しかし数ヶ月など、極端に短期間で先生が退職した場合、仲介手数料が減額されてしまうため、すぐに退職されてしまうことは避けたいという意図があります。
求人会社にとって最高のお客様とは?
ここで上記のような視点で、求人会社にとって最も良いお客様を考えてみると、「一度の転職で最適な職場を得て定年まで勤める先生」ではなく、「数年おきに自社経由で転職を繰り返してくれる先生」ということになります。これは利益構造を考えてみると明らかですが、一度で最適な職場を得た場合、転職を仲介する機会は一度きりですが、何度も転職を仲介できれば、その都度高額の仲介手数料を得ることができます。
釣り物件
先生は不動産業界でのいわゆる「釣り物件」というのは、ご存知でしょうか?優良な賃貸の情報を、すでに埋まっているのにもかかわらず、しばらく掲載しておく手法です。良い物件というのはすぐに埋まってしまいがちですが、多くの問い合わせを集めることが可能です。そのためしばらくは掲載しておき、問い合わせを集めます。そこで問い合わせがあると、「その物件は埋まっていますが、近くにはこのような良い物件があります」、と営業をかけます。問い合わせをするような人は、その近隣で直近に引っ越しを予定している人ですので、営業が成功する可能性が高いです。このように既に充足しているにもかかわらず、問い合わせを集めるための「撒き餌」として、しばらくレア物件の情報を乗せておく手法があるそうです。
実は転職業界にも似たような例があります。高収入などの待遇がよい求人を、既に募集が終わっているにもかかわらず、掲載しておくこともあるようです。私が実際に見た例では、相場から明らかにかけ離れた高待遇な募集を掲載しており、不審に思っていましたが、今考えると、転職希望の医師情報を集めるためのものであったかもしれません。一般的に相場から明らかに浮いたような存在の求人は、注意した方が良いと思います。
会社による待遇の違い
賃貸住宅では、仲介する不動産会社によって、仲介手数料や各種手数料や消毒費用、鍵交換費用など、総額がかなり異なるケースがあります。敷金や礼金、さらには家賃まで異なるケースもあります。あまり知られていない事かもしれませんが、仲介する会社により、賃貸を借りるときの総額は、かなりの差が生まれます。
転職業界も、私が見てきた限り不動産業界ほどではありませんが、仲介する会社により待遇が異なるケースもあります。例えばある求人を、A社、B社どちらでも扱いがあるものの、B社の方が待遇が良く募集しているケースもあります。その場合は、当然B社から問い合わせて、転職をした方が良いわけです。小さなことでは交通費の負担の有無などですが、年単位で勤める場合は、結構大きな差が生まれてきます。
まとめ
このように見てみると、不動産業界と転職業界はいくつか共通点があります。大切なことは相手の利益構造を知ると、こちらも戦略を取りやすくなることです。転職の途中で何かおかしいと違和感を感じたり、異常に待遇が良い求人などを見つけた際は、今回の記事のことを思い出していただければ幸いです。