常勤か非常勤か?

シリーズ 医師転職の最適解

医師転職は先生によって、状況、希望条件が異なるため、最適解は先生それぞれで異なります。それを承知の上で、当サイトでは、経済面、QOLを最大化する方針で、医師転職の最適解を考えてみようと思います。先生が転職する際の、ひとつの参考としてご覧いただければ幸いです。

今回は具体的な例を考える前に、そもそも転職する場合、常勤がよいのか、非常勤の方がよいのかについて、それぞれのメリット、デメリットについて考えていこうと思います。

一昔前までは、常勤転職が常識だったが。。

医師の転職では、従来は常勤で転職を行うのが一般的でした。しかし、現在は働き方の多様化や、QOLを重視する先生も増えたため、非常勤で転職する医師も多くなっています。
まずは常勤のメリット、デメリットについて考えていきます。

常勤のメリット

常勤のメリット① 安定性

常勤でのメリットはなんといっても安定性です。先生はあまり普段意識することがないかもしれませんが、正社員はよっぽどのことをしない限り、解雇されることはありません。日本は労働者の権利が強く、法律によって非常に強固に守られています。

視点を変えて、雇う側の立場で考えてみます。もし多少問題があるような医師を採用した場合でも、よっぽどのことが無い限り解雇することはまず出来ません。仕事ができない、遅刻多いなど、社会人として問題があるような医師だとしても、実際問題として、一度正式に正社員として採用した医師を退職させることは、極めて難しいのです。

これは先生の立場からみるとかなり有利です。もちろん問題を起こしたり、揉めたりするようなことはない方がいいですが、医療機関の一方的な理由で解雇されることはまずありません。もしそのようなことがあれば、厚生労働省の個別労働紛争解決制度を利用して、戦うことができます。不当な理由であれば、まず先生側が有利な立場になります。

常勤のメリット② 社会保険料をまかせられる

常勤の先生であれば、社会保険料は、医療機関が代行して管理してくれるため、先生はご自身で管理する必要はありません。ここで簡単に社会保険料についてみてみます。

常勤の先生 社会保険料=健康保険+厚生年金
非常勤の先生 社会保険料=国民健康保険+国民年金

社会保険料は非常にざっくり言えば、健康保険+年金制度のことです。これが常勤か否かで、上記のように分かれます。

常勤の先生は、全て代行してくれるので、特に先生が管理する必要はありません。自動的に毎月給与から引き落とされ、納付してくれます。毎月の給与明細をよく見ると、少なくない金額が天引きされていると思います。実はこれでも本来納める額の半額なのです。もう半分は医療機関が負担して、納付してくれています。社会保険料は常勤の先生は、先生ご自身と、医療機関で折半して納付するので、この面でも常勤は有利になります。

非常勤の場合は、社会保険料=国民健康保険+国民年金となりますが、これはすべてご自身で納付し、管理しなければなりません。国民健康保険は年収により額が変わりますが、多くの先生は上限MAXになるでしょう。また配偶者を第3号被保険者としている場合、配偶者の方の国民年金は個別に納める必要があり、負担感は増すでしょう。

常勤のメリット③ 退職金がある

常勤の先生は、ほとんどの病院では定年退職の際に高額の退職金を得ることが出来ます。退職金は受け取りの際も、税金が優遇されているので、非常に有利です。常勤で長く働くことは、自動的に老後の対策も取っていることになります。

一方非常勤の先生は、退職金はありません。ご自身で老後の資金対策をとる必要があります。考え方を変えると、退職金でもらう分を、毎月の給与で先にもらっているとも考えられます。ご自身で全世界株式などの投資信託、ETFに定期的に積み立てれば、老後資金に困ることはないでしょうが、ご自身で管理する手間が生じます。

常勤のメリット④ 確定申告が不要な場合も

常勤の先生の場合は、年収2000万円以下の場合は、常勤先が年末調整をしてくれるので、確定申告は不要です。年収2000万円を超える場合は確定申告が必要ですが、このケースではそこまで複雑でないので、経理の事務さんに聞けば簡単にできるでしょう。

一方非常勤の先生は、ご自身で確定申告が必要です。源泉徴収票、社会保険料の納付、ふるさと納税、医療費控除など、必要なものはすべてご自身で保存しておく必要があり、基本的に自力で行う必要があります。慣れれば実はまったく難しいものではないですが、書類の保存、管理が必要なため、自己管理が必要になります。特に書類の紛失に注意が必要です。

常勤のデメリット

常勤のデメリット① 給与が低め

同じ仕事内容でも、常勤で週5日働く場合と、非常勤で週5日働く場合、一般的に非常勤の先生の方が年収としては高くなる傾向にあります。もちろん社会保険料の負担もあるので、額面上の通りでなく、実際の手取りを換算する必要がありますが、やはり非常勤の先生の方が給与は優遇されがちです。

この理由は大きく分けて3つあると考察されます。

一つ目は、社会保険料の医療機関負担分が、常勤の先生の年収には、含まれていない点です。上記でも触れましたが、常勤の先生は、医療機関側が、社会保険料の半額を負担してくれています。これは換算するとかなり大きな額になります。

2つ目は安定性です。常勤の先生は、病院の経営が傾いても、先生に何か問題が生じても、解雇されるリスクは低いです。その反面、非常勤の先生は、契約期間が終わればリリースされてしまうリスクを常に抱えています。(非常勤の先生でも5年以上勤めた場合は、常勤の先生ほどではないものの、法的に保護されます。)(参考記事→5年以上で期間の定めのない契約に移行できる

3つ目は退職金です。非常勤の先生は退職金はありません。一方で常勤の先生には、少なくない退職金があるのが普通です。非常勤の先生は退職金の分を、日々の給与に上乗せしてもらっているという見方もできます。

常勤のデメリット② リスク分散ができない

常勤の先生はほとんどのケースで、一つの医療機関で勤めることになり、考え方を変えれば一つの医療機関に、先生ご自身の将来、人生を預けることになります。定年まで問題なく務めることができればいいですが、もし途中で経営が傾いたり、倒産した場合は、一気に仕事を失う可能性があります。若ければ再スタートは容易ですが、ある程度の年齢になって急にそのようなことが起こった場合は、再就職が難抗する可能性も否定できません。一つの医療機関に依存することは、一定のリスクも抱えていることになります。

非常勤の場合は、いくつかの医療機関を兼務しているので、一つが潰れても一気に収入が途絶えることがありません。キャリアを途絶させることなく、他の仕事をしながら、次の仕事を探すことができます。

常勤のデメリット③ 医療以外の管理の仕事が増える

常勤である程度の期間勤めていると、役職がつき、それに伴い診療以外の業務も増えてきます。管理や教育、経営、病院運営の仕事もだんだん増えてきて、会議も多くなります。ここのような業務に抵抗がない先生はよいですが、純粋に臨床に集中したい先生には、負担になるでしょう。

非常勤ではこのようなことはまずありません。臨床のみの業務が多いです。これはデメリットというより好みの問題かもしれません。

それで最適解は??

常勤のメリット、デメリットをみてきましたが、それはそのまま非常勤のデメリット、メリットになります。これはどちらかが完全によりということはなく、先生のお考えや、好みにより、ご自身によいと思う方をお選びいただくのがよいと思います。
ざっくりと目安を提示するとすれば、

常勤が向く先生
・社会保険、税金、老後資金など面倒なことはおまかせしたい先生。
・比較的安定した環境を望む先生。
・永住先が決まっている先生。

非常勤が向く先生
・ご自身で社会保険の手続きや確定申告を行うことに抵抗がない先生。
・資産形成をご自身でしたい先生。
・変化に富んだ環境が好きで、フットワークの軽い先生。
・ややアウトローな生き方が好きな先生

と考えられます。

どちらかを選んだらずっとということはありませんので、もし今まで常勤の経験しかない先生は試しに数年非常勤を掛け持ってみて、合わなければ常勤に戻るというのもアリです。

繰り返しになりますが、どちらか一方が圧倒的に有利ということは、現状の制度ではないと思いますので、先生の好みでよいと思います。先生が転職する際、もし常勤しか考えていなかったなら、こういう考えもあるという参考にしていただければ幸いです。

管理人ならどうするか?

この記事を執筆時点で、もし私が転職を考慮している場合、どうするかという問題です。現在のわたしの状況では非常勤を選ぶかと思います。訪問診療週3日、自由診療週2日の割合で、医療機関も3つほどに分散して、非常勤をかけ合わせると思います。

理由としては、やはり給与や自由さの問題が大きいです。一度、非常勤の給与や、勤務スタイルを経験すると、常勤が労働の割に評価されにくいことや、働き方がやや窮屈であることに、私は耐えられそうにないためです。しかしこれはあくまで一個人の意見であり、個人の好みによると思うので、一つの参考に留めて頂ければと思います。私は性格的に毎日同じ職場に通勤して仕事をするのが性に合わず、やや冒険的な生き方を好むという性格の傾向もあると思います。繰り返しますが、常勤も上記のようにメリットが多いと私も感じており、働き方は、先生お好みのスタイルが良いと思います。

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