どんな医師が選ばれる?転職成功のために知っておきたい採用側の視点

医師の転職市場では、「どのような医師が選ばれるのか」は医療機関ごとに大きく異なります。この記事では、医師採用時に重視される要素を〈キャリア・履歴書・年齢・見た目・人柄・専門医資格・家庭状況〉という7つの観点から考えてみます。自由診療、在宅診療、病院勤務など医療機関の種類ごとに、採用されやすい医師像も異なります。採用側の視点を知ることで、転職のヒントになれば幸いです。

医師を選定する要素

採用する側の医療機関にとって、選考する際に一番重要な要素は、「その医療機関が求めている医師像」であり、医療機関によってかなり偏りがあります。ある医療機関では大歓迎される先生も、他の医療機関では面接にさえ至らないということも起こります。医師を採用する際に、選定材料はいくつかありますが、以下の要素で考えていこうと思います。

キャリア

医師を選定するうえで大きな材料となるのが、先生のキャリアです。初期研修を終えたばかりの先生か、専門医を取得した10年目の先生か、医師歴20年以上のベテランの先生かでは、それぞれで待遇や対応が異なってきます。

キャリアについて難しいところが、経験豊富な先生が必ずしも有利に働くとは限らないことです。美容医療の現場では、10年内科のキャリアがある先生よりも、初期研修直後の若い先生の方が有利に働くケースもあります。また専門性を極めた先生が、そのスキルを活かしたいと思っても、医療機関側に先生のスキルを活かせる環境がないと、なかなか難しいことになります。

履歴書

キャリアと重複するところがありますが、履歴書もポイントの一つです。この場合ポイントになるのは、短期間で転職を繰り返していることや、ブランクがあるかどうかがポイントになります。もちろん医局に所属している間に、医局人事で数年毎に病院が変わることは普通ですので問題になりませんが、そうでない場合で、転職頻度が多いと、警戒されてしまう可能性があります。またブランクも、子育てや介護等で数年開くようなことは誰でもあるので、問題にはなりませんが、たとえば10年ブランクがあって、久しぶりに仕事をしようとする先生は、不利になってしまうことは否めないと思います。

上記のようなことは、医療機関側の事情によってどこまで重要視するかはかなり異なります。たとえば医療過疎地域で、どうしても医者が足りないようなケースでは多少のことは目を瞑ってでも医師確保を優先するので、あまり問題になりませんが、人気の求人ではやはり不利になると思います。採用する側の立場で考えると、同じような年齢、経験年数で、スキルも同程度と想定される場合、履歴書がきれいな先生と、そうでない先生が並んだ場合は、やはり前者の先生を採用すると思います。

しかし履歴書は絶対的なものではありません。多少転職が多くても、ブランクがあっても、現時点で医者が転職できないということはありません。スキルがなくても再研修という形態で雇ってくれる病院さえあります。たしかに人気の求人や有名病院などでは不利になる可能性は否めませんが、それでもいいじゃないですか。待遇も選べば平均以上のものを確保することもできます。どうか過去にうまくいかない時期があっても諦めないでください。そのような先生を応援するのがこのサイトの目的の一つです。

年齢

デリケートな問題ですが、年齢も選考に関して考慮される要素であることは、事実であると思います。実は人を募集する際、現在は年齢の項目は原則設けてはいけないことになっています。年齢で労働者を差別してはいけないことになっており、募集要項に年齢制限はかけらない時代に建前上はなっています。しかし現実問題として、年齢を考慮しないということは、採用する側からすれば有り得ないことです。例えば40代の先生と80代の先生の同時に応募があった場合、前者の先生が有利なのは誰でもわかることです。

特に自由診療の領域では、より年齢が重要視される傾向にあると思われ、30代までの先生が有利だと考えられます。若い患者さんが多い現場では、スタッフも若い人が好まれる傾向にあります。美容系のクリニックに行くとわかりますが、看護師も受付の方もみんな20代から30代が中心です。キャリアを重ねると管理部門に回ることが多くなることも関係しているとは思いますが、患者さんの年齢層に合わせているという戦略も関係していると思います。

みため

現在はルッキズムという言葉で、人を外見で判断してはいけないという風潮がありますが、しかしながら採用に関して、ルッキズムは確実に存在すると思います。人間が人間をみて採用する限り、外見の要素を廃して中身だけで判断するという時代は来ないと私は思います。よく言われる話ですが、海外では肥満だと、自己管理すらできないと判断され、出世することが出来ないそうです。多様性が認められ、偏見をなくそうとする現代社会でも、現状ではルッキズムをゼロにできないと思います。

こちらもですが、美容系はみためが重視されるようです。それはある意味当然で、みためが良くない医師が美容医療をすすめても説得力に欠けるからでしょう。非常に残酷な世界だと思います。

しかしルッキズムが影響することを前向きに考えると、少し見た目を良くする工夫をするだけで、他の医師に圧倒的な差をつけることが可能とも考えられます。ルッキズムと言っても、医師の場合は清潔感がほとんどです。少しの工夫で圧倒的に印象を良くすることが可能です。

具体的に面接の前に行うポイントを考えてみます。美容院で髪を整える、ヒゲを剃る(または整える)、シャツやスーツはクリーニングに出しておく、靴を磨いておく(外注でもOK)、爪を短く切りそろえておく(けっこう見落としがちです)、可能なら血色を良くするために顔や手にクリームを塗っておく、等これらのことをするだけで圧倒的に良くなります。医師は何も対策をとらないで転職活動を行うことが多いので、たったひと手間で確実に、圧倒的な差をつけることが出来ます。

人柄・印象

面接の短時間で人柄を判断するのは困難ですが、短時間話してみた印象も、重要な要素になります。現在医師転職では、技術よりも、話しやすさなどのコミュニケーション能力が重視される傾向を感じています。職人気質でぶっきらぼうだけど、技術は超一流の医師よりも、話しやすくて、怒らない、一緒にいて居心地の良い、平均的な診療能力の医師の方が求められる傾向です。

これらはなかなか急に変えることは難しいかもしれませんが、考え方を変えると面接の短時間の印象を変えることができればクリアできるわけです。もし可能なら転職エージェントと簡単な模擬面接の練習をすると、かなり変わると思います。医師の場合は、ドアノックや名刺交換の作法など、新社会人に求められる形式的な作法は、私は不要だと思います。むしろ優先なのは、怖い先生だと思われないこと、威圧感を与えないこと、だと思います。

専門医

専門医資格があれば、その領域の診療能力は担保されるわけですから、アピールポイントになります。しかし現状では専門医は必須ではなく、あれば加点される要素の一つにとどまっていると思います。もちろん新専門医制度がより厳格化され、基本診療料の専門医取得が医師免許とセットになれば、影響はあると思いますが、少なくとも現状では、専門医の有無で転職のしやすさや待遇が大きく左右されることはありません。

むしろ専門医や博士号の資格や経歴よりも、コモンディジーズを扱う大多数の医療機関では、コミュニケーション能力の方が重視されるように思います。

しかしもちろん今後のことはわかりません。専門医をとっても、今後も転職にはさほど影響せず、維持負担がかかるだけかもしれませんし、逆に基本領域の専門医がないと診療や転職が不利になる可能性も否定できません。こればっかりはなんとも言えません。もし迷う若手の先生の場合は、何かしらの専門医取得は無難な選択肢だと思います。個人的には3年間の研修期間で比較的取得しやすく、求人の幅広さから汎用性が高い、総合診療科が一つの選択肢になるかと思います。(参考記事→総合診療科への転科 スキルがない場合の再研修は可能か? 専門医は必要か?

家庭状況 

本来は家庭環境等の事情は、面接で聞いてすらいけないことのはずですが、こちらの考慮される要素になりえます。たとえば家族を介護しながら働いている、小さいお子さんがいるような場合、採用する側としては、「急な休みなどがあるかもしれない。。。」ということが頭によぎるわけです。仕事環境でバックアップできる体制が整えられる、ある程度の規模の病院ではよいですが、最低限の医師数で回している訪問診療クリニック等だと、一人の欠員を埋めることが困難なため、不利になる可能性は否めません。

医療機関別、重視する要素

今度は医療機関の立場で考えてみようと思います。先生の採用で重視する要素は、医療機関によってもかなり異なります。A病院では歓迎される先生も、Bクリニックでは不採用ということもあります。医療機関が重視する項目に関して対策を考えると、応募する医療機関も変わってきます。以下でいくつかの具体例でケース別に分けて考えていきます。

自由診療の医療機関

自由診療で、美容系の場合は、年齢や見た目が重視されます。正直に申し上げると、一定以上の年齢で、美容系の経験がない場合は厳しいと思います。逆にあまり経験がない若い先生の方が有利になるのですから、転職はなかなか難しいものです。

在宅診療の医療機関

在宅診療の現場では、専門性よりも、幅広くジェネラルに全身管理ができる先生が求められます。必ずしも総合診療や一般内科の先生ではなく、外科や麻酔科などの先生もいらっしゃいます。在宅ではどうしても機器や検査が限られますから、専門性を発揮できる範囲にも限りがあります。それよりも一般的な診療をまんべんなくできる先生の方が、診療科を問わず有利です。

このように書くとどうしても敷居が高く感じる先生もいらっしゃると思いますが、在宅の場合は、未経験でも院長先生が最初は同行して、困難症例では相談にのってくれるようなところもあります。むしろ1人で抱え込んで、独自に色々行うよりも、そのクリニックの診療方針に従ったほうが経営者側も先生もストレスが少ないので、情報共有はしたほうが良いです。そういう意味もあり、話しやすく、コミュニケーションが取りやすい先生が好まれると思います。

在宅診療では、病院に比べてスタッフ数も少なく、人間関係も煮詰まってしまうことがあります。一人でも上手く行かない人がいると経営者としてはかなりのストレスです。特に医師は経営にも重要ですから、院長や経営陣と円滑にコミュニケーションがとれる必要があります。

そのような事情ですから、採用する側としては、一緒にストレスなく仕事できる先生、馬が合う先生というのが、採用でも重要です。そしてそれは先生にとっても同様で、先生も面接でストレスなく勤められそうと思えばよいですし、なんとなく合わなそうと思えば、たとえ内定を得ても辞退するのも現実的だと思います。

病院勤務 亜急性から慢性期の医療機関

病院で急性期後の患者さんがメインの場合は、こちらも在宅診療と同様にある程度幅広く、専門以外も診療することができる必要があります。急性期でない病院では、医師の数も少なく、病院の規模にもよりますが、専門診療科が揃っていないことも珍しくありません。そのため専門性よりも、ジェネラルに診療ができる医師が欲しいというところが多いようです。

まとめ

医師の採用基準は、医療機関によって大きく異なります。キャリアや見た目、年齢、人柄など多くの要素が見られますが、すべてが一律に評価されるわけではありません。不利に感じる点があっても、他の強みで十分にカバーできます。大切なのは、先生に合った職場を見つけることです。どんな先生にも、必要とされる場所は必ずあります。先生の強みを活かして、転職が成功することを応援していきます。