雇われる側の立場は思っている以上に強力

普段はあまり意識することがないかもしれませんが、医師も医療機関に所属して働く以上、労働者です。他の職種と同じように、労働者としての権利が保証されています。実は雇う側よりも、雇われる側の労働者の方が、権利が圧倒的に強く、法的な保護も手厚いです。労働者としての観点から、先生方が応用できる考え方について考えて行こうと思います。

常勤は特に法律で強固に保護されている

先生がもし常勤で勤務されている場合は、労働者として法律で強く守られています。先生を雇っている病院は、よほどのことが無い限り、先生を辞めさせるようなことはできません。たとえば日当直や時間外当番、委員会などの受けたくない業務を断ったり、たまに遅刻をしたりする程度では、まず解雇するようなことはできません。お金を横領するとか、薬品を盗むなどのレベルのことを起こさない限り、先生の同意なくして、辞めさせられるようなことはありません。事実上、先生が自らの意思で退職の意思を示すか、有期契約の場合、契約期間が切れるなどしない限り、先生が今の職を失うことは通常考えにくいです。

これは雇う側の立場で考えると、結構難しい問題でもあります。能力が不足していたり、業務を受けなかったり、遅刻をしたり、協調性がないような職員でも、それだけを理由にしてすぐ解雇するのは不可能です。改善指導や業務転換など、再三にわたって行っても、改善がみられないようなケースでないと、解雇はできず、またその手続きを踏むのには、多くの時間と労力がかかります。雇う側の立場から考えてみると、常勤職員を解雇することは極めて難しくそのため、めったなことが無い限り、常勤の先生方が仕事を失うことは無いことがご理解いただけると思います。

非常勤も労働者としての権利がある。

常勤ではなく、非常勤のお仕事をされている先生もいらっしゃると思います。非常勤の場合は、やはり常勤よりも保護の強さは劣りますが、労働者であることには変わりなく、一定の保護はされています。

雇用形態が非常勤でも契約更新を繰り返し、5年以上勤めた場合は、常勤同様に、そうそう解雇できない仕組みになっています。5年以上勤務した場合、またはする見込みの場合は、「無期転換ルール」の行使が可能です。これは労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールのことです。

重要なポイントは、5年以上勤務した場合、または勤務見込みの場合に、次の更新までに先生の方から、「無期転換の申込み」をすることが必要になります。これは労働者に有利な法律なので、医療機関の方から先生に提案をしてくれることはまずありません。先生が正しい知識をもって、請求をすることが必要になります。図を用いて以下で具体例をお示しします。

契約期間が 1 年の場合、5 回目の更新後の 1 年間に、契約期間が 3 年の場合、1 回目の更新後の 3 年間に無期転換の申込権が発生します。

労働基準監督署のホームページ資料より引用。

無期転換申込権が発生した際は、その有効期間内に、先生の方から医療機関側に申し出ることが必要です。申込みがない場合は、権利が発生しないので、注意が必要です。

無期転換の申し出をすることで、給与や待遇に影響が出る心配をされる先生もいらっしゃると思います。労働条件は有期契約で働いているときと同等になることが原則です。もし業務に変化がないのに、待遇が下がった場合は、法律に反する不当な対応になりますので、労働基準監督署にすぐに相談することをオススメいたします。明らかに法律違反なので、速やかに改善されると思われます。

有給休暇について

労働者である以上、常勤、非常勤にかかわらず、条件をみたせば有給休暇が発生します。これは労働者の権利ですので、「うちは有給はない」「有給をとられると業務がまわらないので困る」などといった、雇用主の言い訳は一切通用しません。先生が申し出た場合、雇用主は有給休暇を拒むことはできません。

参考までに有給休暇の日数の資料を載せて解説します。

厚生労働省のサイトより引用

常勤で週5日勤務の先生は、上の表になり、非常勤などで週4日以下の先生は、下の表になります。常勤、非常勤に分けて解説します。

・常勤

常勤週5の先生は、半年勤めるとなんとその時点で有給休暇が10日も付与されます。意外にも多くの先生がご存知ないかもしれません。ひとつの医療機関に6年半以上勤めている場合は、なんと毎年、20日の有給休暇が発生します。これは医療機関にかかわらず、どのような仕事をしていても同様です。先生が有給休暇を申請した場合、医療機関側は断ることはできません。もちろん明日から急に20日一気に休むと言われれば、診療に支障がでるため、現実的ではないですが、事前に十分計画した上で申請すれば、雇用主は断ることは法律上できないのです。
(※一部の有給休暇の取得時期を雇用主が指定することは法律で認められています)

・非常勤

意外なのは、非常勤の勤務でも有給休暇が発生することではないでしょうか?これは結構な盲点で、私も自分が非常勤で勤務するまで、有給休暇は常勤しか貰えないものであると勘違いしていました。たとえば、週2で非常勤の勤務をしていれば、上の表から、半年後には3日間の有給休暇が発生します。これは結構大きいです。日給が10万円の勤務であれば、30万円に相当する権利です。これを知らずに勤務しているのは30万円をみすみす無駄にしているようなものです。先生によっては、休むことにあまり魅力を感じないかもしれませんが、仕事が好きな先生でも有給休暇を取得して、その日に別のスポットバイトを入れて仕事をすることも可能です。せっかくの労働者としての権利を行使しないのは、大変もったいないことです。
こちらについても、雇用主の方から有給休暇をとれますよ、というようなことは教えてもらえません。先生が正しい知識をもって、権利を行使することが重要になります。

また有給休暇取得には、特に理由は必要ありませんし、取得の理由を言う必要もありません。「遊びに行く」でも有給取得の理由は十分なのです。

補助解説動画