条件交渉について考える

先生が転職をするきっかけというのは、それぞれだと思いますが、転職の理由のひとつに、待遇や労働環境を改善したいということがあると思います。給与などの目に見える待遇についても重要ですが、当直やオンコール有無などの業務内容についての交渉も、転職では重要です。労働条件については特に最初が重要で、後から変えるのはなかなか困難です。今回は転職で重要な、条件交渉について考えていきます。

労働環境が転職のきっかけになることは多い。

若手のうちは、当直やオンコールを連日こなしても体力的になんとか頑張れた先生が、一定の年齢になると体力的にもキツくなり、昼間だけの仕事にダウンシフトしたいという先生も多いです。週一での当直でも生活リズムが崩されるので、結構つらいですし、連日のオンコールでは気の休まる日まもなく、プライベートもあったものではないという先生も多いと思われます。労働環境を変えたい!というきっかけで転職を決意される先生は多いです。

多くの先生があまり交渉をしない

意外なことですが、シビアな条件交渉をする先生は少なめで、特に給与の交渉には抵抗がある先生も多いです。医者がお金のことに言及するのは、いまだにタブー視されているためでしょう。そのため求人の額面通りの条件で入職する先生が大半だと思いますが、実は給与においても交渉してみると、意外にあっさりと上がることもあります。もちろんあまりに無理な金額は現実的では有りませんが、交渉材料を用意すれば交渉する余地はあります。特に、仕事をダウンシフトするようなケースで、前の職場よりも給与が下がるケースでは、「従前の給与は少なくとも維持したい」と言うことで、交渉がしやすいです。

もし成功すればラッキーですし、条件が合わなければ他を当たればよいだけです。転職成功のポイントの一つは、特定の求人に執着しないことだと思います。なぜか追いかけると逃げていく求人もあります。追いかける立場では有利な条件を引き出すのは難しいです。むしろ先生が追われる立場では、色々有利な条件を引き出しやすくなります。

例えば給与UPで、年収50万円の交渉に成功した場合、長く勤める場合は1000万円規模の額が生涯年収で差が出てきます。これはかなり大きいと思います。転職前の、ほんのたった少しの手間を惜しまないだけで、大きく待遇を改善できる可能性があります。

ちなみに条件交渉で、年収については、求人エージェントも積極的に行ってくれます。というのは、多くの求人会社で手数料は、年収の◯◯%としているケースが多いためです。先生の年収が増えると、求人会社に入る仲介手数料もそれに応じて大きくなり、転職会社も儲かるためです。

当直、オンコールなどの労働条件での交渉

労働条件の交渉ですが、これは絶対に曖昧にしない方が良いです。当直が絶対にやりたくない場合はその旨を伝えて、雇用契約書にも明記して契約するべきです。「最初は免除で、人が足りないときにだけでも、、お願いできれば、、、」などと曖昧に濁してしまうケースも多いですが、医者が余っている医療機関など稀です。この場合、当直を受けることは時間の問題だと思って下さい。このような流れで気づいたら、月に4-5回当直しているなどは、よくあるケースです。転職経験がおありの先生には、もしかしたらご経験があるかもしれませんね。

また曖昧にしてしまうと、頼まれたときに、いちいち断るのが結構なストレスになります。私にも経験がありますが、医局で事務さんが待ち構えていると、医局にも戻りにくくなりますし、本当に気の休まる場所がなくなります。

そのため絶対に受けられない業務などは、あらかじめ明示して、それでもよいか念押しして十分確認したほうがよいと思います。例えば上記の例で、当直が完全免除は難しいと言われた場合は、すぐに他の求人に移ったほうがよいと思います。そこで粘って交渉するのは時間の無駄だからです。また曖昧にしてはぐらかされる場合も、避けたほうが無難かもしれません。

盲点は夜間診療、日直、救急当番

当直、オンコールは気にされる先生も多いかもしれませんが、意外な盲点は、夜間診療、日直、救急当番です。当直免除でも日直は頼まれるというケースは普通にあります。特に抵抗がない先生は問題ないですが、この場合日直も含めて免除のつもりであった、、という先生も少なくないと思います。日直以外では、夜間診療も盲点になります。これらも抵抗がある場合や避けたい場合は、事前に確認しておくことが重要です。また救急当番などもストレスになる先生も少なくないと思いますので、要チェックです。

最初が肝心

交渉事ですが、収入に関わることはもちろん、細かい業務についても、事前の確認、最初の確認が非常に重要です。最初にきっちりと詰めておき、特にできる業務、できない業務についてしっかり確認しておくことが、転職後に先生のストレスを大きく減らすことになります。逆に入職後に条件をひっくり返すことは容易なことではありません。たとえば、契約した後に年収を急に上げて欲しいと言っても断られる可能性が高いことは容易に想像できます。転職条件の交渉は、細かいことも含めて本当に最初が肝心です。

譲れない条件は明文化しておく

転職をしていると、徐々に最初に先生が希望した条件や願望が、徐々に薄れてきてしまい、何のために転職をしようと思ったのかがわからなくなることがあります。また条件の漏れを防ぐためにも、先生が希望する条件については、簡単なメモで十分なので書き出して整理しておくことがオススメです。面接や病院見学時にもメモを持参して、漏れがないように確認をして下さい。(参考記事→転職希望条件のリストの作成

落とし所は決める

条件の交渉ですが、落とし込むところはどこかに決める必要があり、可能なら理想はwin-winの関係を構築できることです。それが先生にとっても居心地の良い職場になり、転職成功になる可能性を上げると思います。たとえば先生が既存の先生よりも圧倒的に有利な条件で転職できたとしても、おそらく周りの先生の手前もあり、そこが居心地の良い職場とはならないと思います。たとえば、当直は受けられない代わりに、日中の救急当番を積極的に受けることや、関連施設の産業医巡視を受けるなど、先生に負担にならない代わりの業務で条件を交換できると、理解が得られやすいと思います。

条件を最優先する場合は、非常勤という選択肢もアリ

特に常勤の場合は、他の先生の手前もあり、先生の希望を全て叶えるのが難しい可能性もあります。たしかに給与が同じで、当直も日直も救急当番も免除されて、入院患者も持たず、外来と健診業務しかしない先生が入職すれば、元々いる先生が微妙な気持ちになるケースはあるでしょう。たとえ少しでもいてくれた方が、ご自身の業務負担が減るようなケースでも、不公平さを感じて頭にくる先生がいてもおかしくはないと思います。

私も一度、あまりの待遇の違いに辟易した経験があります。私や他の医師は忙しく働いている一方で、いつも医局で休んでいられると、他人に関心が薄い私でさえ、なんだか割り切れない思いがしたものです。(参考記事→常勤で不公平感がある場合はどうするか

先生が勤務条件を優先したい場合は、常勤にこだわらず非常勤の勤務をいくつか組み合わせるという方法もあります。単純に当直が免除などは常勤でも問題なく可能なケースは多いですが、外来だけの業務に絞りたい場合などでは、なかなか総合病院の常勤では難しいケースもあるかもしれません。そのような場合は、非常勤で先生好みの求人をいくつか選んで、先生だけの理想の労働環境を作ってしまえばよいわけです。もちろん常勤という安定した環境を捨てるデメリットもありますが、非常勤にもメリットは少なくありません。(参考記事→常勤か非常勤か?

非常勤であれば願いは叶えやすい

非常勤の場合は、多くの先生が気にされる当直、オンコールもないのが普通です。週1非常勤の先生が入院患者さんを受け持つことは現実的でありませんし、非常勤の先生に当直業務を頼むのも、一般的ではないでしょう。場合により非常勤でも医療機関によっては日当直の依頼を打診されることもありますが、断ってしまって全く問題なしです。それは基本的に常勤医師の領域だからです。

非常勤のメリット、デメリットは上の参考記事もご参照頂きたいのですが、今回のケースで考えると、好みの仕事を先生ご自身でカスタマイズすることが出来るという点であると思います。

常勤はコース料理、非常勤はアラカルト

食事で例えるなら、常勤はコース料理、非常勤はアラカルト・メニューで頼むようなイメージです。

常勤の場合は、メインの好きな仕事以外にも、当直、オンコール、時間外当番、後輩の教育、委員会、管理業務、場合によっては経営への参与など、先生が好きな業務以外にも、様々業務がセットになっています。えり好みすることも出来なくはないですが、コース料理であまりに好き嫌いが多いとシェフも困ってしまいます。場合によっては難しいケースもあるでしょう。その代わり様々な業務を経験できるので、業務のバランスが取れており、医師として、社会人として成長が望めることや、全てパックになっている安定感もあります。

それに対して非常勤は、アラカルト・メニューで好きなメニューだけを注文することができます。やりたくない業務は、それがない仕事を選べば良いので、先生ご自身が得意な業務に集中することができます。たとえば外来の仕事であれば、それ以外の仕事を振られることはありません。当直もコールも有りません。後輩の教育などもありません。純粋に臨床のやりたい業務に特化することができます。これは結構大きいメリットであると思います。その反面、仕事のバランスはご自身で考えなくてはならず、社会保険料や税金の管理もご自身で行う必要があり、全て自己責任になります。

どちらが良いかは好みの問題

どちらが良いかは先生の好みになると思います。一般的に無難なのは、コース料理の常勤であると思います。それが従来型のメインの考え方でした。しかしこれは本当に全ての先生にとって最適解なのでしょうか?たとえばものすごい偏食の人に、コース料理を用意するのは、たとえ高級食材を使っていても苦痛でしかありません。そのような方には、アラカルトで好きなメニューだけ注文して食べた方が幸せなはずです。たとえそれで栄養バランスが偏っても、それはそれで、本人が納得しているのであれば良いのではないでしょうか?つまり非常勤で得意な業務だけに集中することも、私はアリなのではないかと思います。

少なめコース+追加でアラカルト =  ハイブリッド常勤 

またアラカルト・メニューだけでは味気ないという場合には、少なめのコース料理を注文して、いくつか好きなアラカルト・メニューも追加注文するということもできます。当サイトでも提唱しているハイブリッド常勤で、週4常勤+週1非常勤という働き方です。常勤と非常勤の良いとこ取りをすることが出来ます。こちらは多くの先生にとって心地よい選択肢になり得るのではないかと考えています。(参考記事→ハイブリッド常勤 )

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