常勤医はよっぽどのことがないと、解雇されない。

常勤医は「よほどのことがない限り解雇されない」とよく言われますが、それは本当なのでしょうか?実は、労働法に基づき、医師も強力に保護された労働者の一人です。本記事では、医師の雇用がどれほど強固なものかを解説しつつ、制度変化や病院経営の影響により今後常勤医も安泰ではなくなる可能性、そしてその対策としての“転職への備え”について考察します。

常勤で雇用期間に定めがない契約は、非常に強い。

常勤医は先生が思っている以上に、法律で強力に保護されています。先生はめったなことでは常勤の仕事を失うことはありません。医師に限りませんが、労働者の権利は非常に強く、強力に法律で保護されており、労働者が不当な理由で仕事を失うことがないように設計されています。労働者にとっては有利で、雇用主にとっては不利といえるような状況でさえあります。実際問題として、医師がクビになるようなことはめったにありませんが、覚えておくといざというときに役に立つと思います。

労働者の権利は医師も、他の職種も同様

医師も労働者なので、労働基準法に守られています。有給休暇も取得可能です。時間外勤務には残業代が支給されます。もし先生の職場が守られていない場合や、有給休暇を申請しても拒否される場合は、労働基準監督署に相談すると、相談に乗ってくれます。先生の方に分があるので、おそらく速やかに解決します。(参考記事→有給休暇は非常勤でも取れる!

思考実験 どこまで許容されるか?

このように労働者はかなり守られている状況です。今回はなんだか意地悪な考え方になってしまいますが、思考実験としてどこまでやっても許容されるかについて、考えてみようと思います。

・毎朝少し遅刻する→この程度ではまずクビになりません。
・やりたくない業務(委員会、教育等)を断る→これでもまず無理でしょう。
・日当直、休日出勤を断る→体調が良くない等なにか言い訳があれば、まずこれでも無理だと思います。
・入院患者の受け持ちを制限する→こちらも他の医師と比べて極端に少ない等でなければ無理だと思います。
・無断欠勤をする→社会人的にはアウトのように思えますが、1度や2度ではまずクビにできません。再三にわたり、注意してもきかない場合でないと無理だと思います。

思考実験 何をすればクビとなるか?

今度は逆にこれをやったらさすがにアウトということを考えてみます。

・刑事事件を起こす→さすがにこれはアウトでしょう。
・麻薬や薬を盗む→これは事件になってしまうのでアウトです。
・暴力をふるう→職員同士の小さなケンカで、事件にならないレベルならわかりませんが、昔と違って今の時代ではアウトの可能性が高いです。
・お金を横領する→これは一般的な勤務医には考えにくいですが、経営に参与している場合、明らかに不適切な経費を使用して、キックバックを受けるなどでは、問題になるかもしれません。
・遅刻、欠勤を繰り返し、再三の注意を無視する→一度や二度では問題にならなくても、文書で・注意を何度も受けても、改善が見られない場合は、懲戒免職の対象になります。
・病気による欠勤が長期間続く→基本的には1年半までは保証されることが多いようですが、それ以上の期間で、同一の病名の場合は、退職方向になることもあるようです。こちらについては個別のケースによると思われます。

要するに犯罪レベルのことをするか、再三にわたって注意を受けても無視し続けるなどの特殊なケースでなければ、なかなかクビにはならない、できないということです。

医療機関の立場では困る

このような状況ですので、多少問題があるような職員も、雇用主の都合で辞めてもらうということが出来ません。辞めてもらう場合も、文書での指導、警告を再三に渡って行い、ややこしい手続きを踏まなければならず、かなりの労力がかかります。またヘタをすると、今の時代は労働基準監督署に駆け込まれて、裁判になることもあります。

そのため雇用主としてはできる限り、問題となる労働者は雇いたくないという心理があります。一度入職したら、医療機関の都合でやめてもらうのはかなり難しいためです。

辞めてほしくても、辞めさせられない医者問題

先生も今まで働いてきた病院で、問題がある医師や、他の先生よりも明らかに業務が少ない医師などを目にしたこともあるのではないでしょうか?医療機関としても、このような医師には、辞めてもらいたいという気持ちがあると思いますが、実際問題として、一度常勤で雇った医師を辞めさせるのは、上記の通り極めて難しい状況です。そのため、問題があっても、仕事をしなくても、居座り続けることになります。

困るのが、このような不公平がまかり通ってしまうと、他の医師の業務負担が増え、勤労意欲も著しく削いでしまうことです。医師の給与は基本的に年功序列ですので、経験年数とともに、まともに仕事をしなくても給与は上がります。若手の医師がやっていられないと思うのも仕方がないでしょう。その結果、真面目に働いている医師の離職に繋がり、また新しく入ってくる医師も定着しにくく、医療機関としては非常に困ることになります。(参考記事→常勤で不公平感がある場合はどうするか

常勤を離れてわかる、労働者の権利の強さ

普段は意識することがないと思いますが、先生が常勤医師として医療機関に勤務している場合は、想像よりも強力に守られている状態です。これは離れてみると本当に実感します。滅多なことを起こさない限り(事実上先生が辞めると言わない限り)仕事を失うことはありません。たとえ不摂生をして身体を壊したとしても、しばらくは面倒をみてくれますし、傷病手当による金銭的な保障もあります。通常は退職金もある程度支払われ、税制上も優遇されます。

逆に非常勤医師は、本当に守られていません。極論すれば日雇い労働者と同じです。医療機関の都合で雇い止めとなり職を失う可能性もあります。給与は常勤よりも良いことが多いですが、身体を壊したらそこで終わりです。収入も途絶えてしまい、保障もありません。退職金もありません。すべて自己責任で対策を立てなければなりません。常勤、非常勤はメリット、デメリットはそれぞれでありますので、他の記事も参考にしてください。(参考記事→常勤か非常勤か? 常勤医師の目に見えないメリット )

終身雇用崩壊は、医師の世界にも来ると思われる

しかしながら、長年続いたこのような体制も遠からず崩れていくと思います。終身雇用維持は医師の世界でも困難と思われます。今まで常勤医の身分は今までは非常に安定したもので、めったなことが無ければ定年まで勤められる形態でした。しかし労働者は守られすぎていた面があり、雇用主側にとっては不利と言える状況でした。これが是正され、雇用主が労働者の解雇をしやすくなる未来が現実になると、医師の世界にも影響が一気に広がるでしょう。医療機関にとって都合が悪い医者は切り捨てられる未来が予想されます。

また人口減少により病院の統廃合が進み、ポストは明らかに減っています。その一方で医師の数は増えているので必然的に競争が激しくなります。職にあぶれた医師が路頭に迷う時代が、現実のものとなるのかもしれません。

対策は?

もちろん今すぐに、体制が変わるという状況ではないと思いますが、この界隈の制度は変化が始まると、数年で状況が激変する可能性はあります。そのための対策としては、医療機関にとって必要な人材であること、何かあってもフットワーク軽く動けるようにしておくことが考えられます。

医療機関にとって先生が必要な人材であれば、制度が変わろうが、何があろうと先生には声がかかるでしょう。むしろ実力がある先生にとっては有利な時代になると思います。

しかし先生が優秀な方であっても、勤めている医療機関そのものが経営的に傾いて、仕事を失ってしまう可能性もあります。医療機関が経営破綻するニュースは、もはや最近は珍しいものではなくなりました。現実的なリスクとして考える必要が出てきているレベルです。そのため何が起きても、フットワーク軽く転職できるように備えておくことは、常勤、非常勤問わず、勤務医には必須のスキルになると思います。

まとめ:今後に備える医師のキャリア戦略

・常勤医は労働法により非常に強く守られており、簡単には解雇されません。
・多少のトラブルや勤務態度の問題では、解雇には至らないケースがほとんどです。
・ただし、医療機関から見て「辞めてほしい医師」に対する対応は難しく、職場の負担や不公平感が生まれやすくなります。
・今後は終身雇用制度が崩れ、医師にも実力主義や転職が当たり前になる可能性があります。
・「必要とされる医師」であり続けること、そして「フットワーク軽く動ける準備」をしておくことが、今後ますます重要です。