問診系の仕事 過去、いま、今後について

医者の仕事の中には、主に自由診療で「問診中心の仕事」というものがあります。代表的なのは医療脱毛クリニックですよね。実際の施術は看護師さんが行い、医者は問診と、万一皮膚トラブルがあったときの対応だけを担うという形です。実質的には待機に近いような仕事が多いのが現状です。

こうした問診アルバイトの今後がどうなるかについてですが、正直なところ何とも言えません。制度が変われば一気に収入源がなくなる可能性もあるし、「もうなくなる」と言われながらも、なんだかんだ長年生き残ってきた歴史もあります。ですので、今後も続くのか、それとも縮小していくのかは現時点では読めないところです。

問診アルバイトの現状

問診中心の仕事にはいくつか種類があります。代表的なのは脱毛クリニックですが、近年は医療ダイエット関連のアルバイトも増えています。処方自体は医者が行うものの、実際のカウンセリングはカウンセラーさんや看護師さんが対応し、最後の説明や処方の段階で医師が対応する──そうした流れが一般的になっています。

医師が担うのは初診の問診や最終説明、カルテ記載などですが、実働としては30分から1時間程度で終わることも多く、仕事内容として労働負荷は軽いと言えます。
それにもかかわらず給与は比較的高く、人気のアルバイトとして定着してきました。

ただ、ここ数年は変化も出てきています。医療脱毛のビジネスモデルが厳しくなっており、かつては予約が取れないほど患者が集まっていたクリニックも、今では競合が乱立し、顧客の取り合いになっています。そのため、医師の時給も下がりつつあり、以前は当たり前のように時給1万円以上、日給8万円といった水準だったものが、最近では時給8,000円以下の募集も珍しくなくなってきました。

今後の見通しとリスク

自由診療の厳しさは、保険診療と違って市場の影響を強く受けることにあります。儲かる領域には資本を持った大手が次々参入し、競争が激化します。美容系の問診アルバイトも同じで、医師希望者の増加も相まって、待遇は今後さらに厳しくなると考えられます。

急激に制度が変わる可能性もある

ここは特に注意が必要です。
今は「1クリニックに医者が1人常駐していなければならない」というルールがあるため、現場に医師が配置されています。しかし、もしこのルールが緩和され「必ずしも医師がいなくても施術可能」となれば、医師が常駐している理由そのものが消えてしまいます。

例えば、全国に50の拠点を持つ大手クリニックがあるとします。現在はそのすべての現場に、毎日1人ずつ医師を置いているわけです。しかし、もし制度が変わって「本部に医師が1人いればOK」「リモートでつなげばOK」となればどうでしょう。配置されていた多くの医師が不要になり、一気に仕事を失うことになります。

実際、問診もオンライン診療で代替可能ですし、皮膚トラブル対応も写真を送ってもらえば十分に判断できます。今は「施術時に医師がいなければならない」というルールがあるから置いているに過ぎず、そのルールが撤廃されれば、多くのクリニックが医師を置かなくなるでしょう。そうなれば美容医療業界は一気に値崩れを起こす可能性があります。

これは他分野でも同様の議論が始まっています。たとえば当直に関しても「各病院に必ず1人医師が必要」というルールがありますが、人材不足の問題から「2〜3病院に1人配置でもよいのでは」という流れが一部で出てきています。もしこれが進めば、美容医療にも同じ考え方が波及してくるかもしれません。

要するに、これは医師の力や現場努力ではどうしようもなく、制度に翻弄されるリスクだということです。保険診療だけでなく、自由診療に携わる医師にとっても制度変更による影響は避けられないリスクなのだと思います。

技術がないときついかもしれない

少し話がそれますが、「問診だけの仕事」の最大のデメリットは、やはり医師としてのスキルが身につかないことだと思います。たとえば10年間ずっと問診だけを続けても、臨床スキルはほとんど伸びません。つまりキャリアとして停滞してしまうわけです。

一方で、保険診療の医師として10年やっていれば、ある程度は一人で完結できる臨床力がつきます。そこからなら、自分でクリニックを開いたり、転職したりといった選択肢も広がります。それを捨てなければならないのが、問診中心の仕事を選んだときの最大のリスクなのかもしれません。

つまりこれは、**「お金を取るか、技術を取るか」**という選択になる。とても難しいところだと思います。
王道に進めば必ず安泰というわけではないし、逆に皆が行かない道に進んだからといって必ず失敗するとも限らない。実際、10年前に自由診療に振り切って戦略的に動いていた先生のほうが、経済的には圧倒的に勝っているのが現状です。

保険診療の道を選んで真面目に積み上げてきた先生が、そこから巻き返して経済的に並ぶのはほぼ不可能と思われます。なぜなら、すでに数億の資産を築いている人と、今なお貯金ゼロに近い人とでは、どうしても差が開きすぎているからです。だからこそ、過去10年でみれば、お金だけの視点で見れば、自由診療に振った人が有利だったというのは否めない事実でしょう。

どうなるか本当にわからない

正直、見通しは誰にもわかりません。数年後には自由診療の問診中心の仕事が大きく減っているかもしれないし、今とほとんど変わらないかもしれない。むしろ美容医療がさらに普及して需要が増えている可能性だってある——本当にわからない、というのが実感です。

私はこの自由診療の業界に入ったのは数年前ですが、10年前ほどから「問診だけで稼げる」話は知っていました。初期研修直後に脱毛クリニックなど問診中心に振り切って、年収2,000万円クラスで稼いでいた先生もいました。
ただし「管理医師」は別のリスクがあるのでここでは置きます。一方で、とても頭の切れる先生は管理医師にはならず、非常勤だけ“おいしいところ取り”で週5相当を回して、高時給×低リスクで“戦略的に逃げ切る”スタイルも存在しました。

当時から「長続きはしない」「2〜3年で終わる」と他の医師から脅し文句は山ほどありましたが、蓋を開ければ10年以上経った今も仕事は存続しています。確かに時給は下がり、条件は厳しくなった面はあるものの、美容医療の普及で求人数自体は増加。初期研修直後から自由診療に振り切る先生の増加が、社会問題化したのは周知の通りです。

振り返ると、10年前に問診中心へ振り切って資産形成していたら“逃げ切れた”先生は現実的にいます。
たとえばS&P 500にコツコツ積立投資して、年1,000万円超を淡々と回していれば、米国株式の好調も相まって2〜3億円規模に育っていても不思議ではない。生活費は絞って無駄遣いを避ける——そういう切れ者の戦略がハマったケースは現実にありました。

その一方で、保険診療の王道を真面目に歩み、専門医を取り、中堅になっても、大学・基幹病院中心だと給与は厳しく、学会費・書籍・出張などで貯金がほぼできない—そんな現実もよくあります。結婚・子育てが重なれば、なおさらです。

じゃあどちらが正解か?——どちらも正解だった思います。


ただ、ここ10年のスパンで“結果だけ”見れば、前者(早くから自由診療×資産形成)が経済的自由を先に確保できていた可能性が高いです。

しかし前者の先生は、資産・経営の勘所は養われても、臨床スキルの不安は残るかもしれない。お金はある、でも**「せっかく医者になったのに」という割り切れなさ。とはいえそこから臨床に戻る道もある**。さすがに10年越しで外科の第一線は難しくとも、診療科を選べば再研修や、戦略を立てれば専門医取得も射程に入ります。
何より、若い時に資産を持っている強さは圧倒的。S&P 500でも**全世界株(オルカン)でも、放っておけば複利が回り続ける。FIREに近い状態なら、仕事は「好きに選ぶ」**段階に移行できる。“問診・健診だけ”を適度に続けてもいいし、「やっぱり臨床力を」と思えば、お金を気にせず修行に戻ればいい。

逆に、後者(王道)は臨床の積み上げという強固な土台があります。食えなくなることはまずないし、開業好条件の転職も、在宅・自由診療へ部分シフトも可能です。今後の発展性は十分にあります。

働き続けること

問診の仕事について、いろいろな考え方や、制度の変更などの厳しい現実はありますが、私は結局、最後は**「働けること」が何より最重要だと思っています。

 制度が変わるかもしれない。時給が下がるかもしれない。けれど医者の仕事がゼロにはならない**。心身を壊して働けなくなることだけは、問診であれ保険診療であれ、最悪のパターンです。


経験がある先生なら、いざとなれば外来に戻ればいい。最先端は専門病院に任せ、総合的なジェネラルを堅実にやるだけでも十分に価値がある。

もし保険診療の訓練をしてこなかった先生でも、できる仕事を続けながら補強していけばいい。どうしても不安なら、保険診療へ一度戻って数年再訓練でもいいし、自由診療の中で“手技系”にしっかり投資する道もある(※管理医師のリスクには要注意)。

要するに——
お金を取るか、技術を取るか。 どちらにも“勝ち筋”はある。
未来は読めない。だからこそ「働き続けられる自分」を守る。
資産は心の余裕をくれる。臨床は職業人としての自尊をくれる。
どちらに振っても、倒れず続ける限り、取り返しはつきます。