
「良い職場」と一口に言っても、これが絶対だという答えはなかなか難しいものです。
最終的には実際に入職してみないとわからない部分が大きいですが、それでも私がこれまで見てきた中で「この職場は働きやすいな」「ここはいい環境だな」と感じた共通点はいくつかあります。ここでは、そうした特徴を整理してお伝えしたいと思います。
目が死んでいない ― 生き生きと働いている
まず大事なのは、そこで働いているスタッフの「目」です。
目が死んでいる人がいない職場は、やはり働きやすい職場だと思います。必ずしも全員が生き生きと楽しそうに働いている必要はありませんが、少なくとも「表情に活気がなく、疲れ果てている人ばかり」という環境ではないことが重要です。
働きやすい職場とは、医師だけでなく他のスタッフにとっても働きやすい場所であるはずです。多くの人が働きやすければ、仕事中の雰囲気も良く、「多少大変なことがあっても、やりがいがある」「負担になりすぎず、生活の一部として続けられる」と思えるものです。医者だけでなく、看護師さんや事務職員など、職場全体が「そこまで無理をせずに充実して働ける」と感じていることは、とても大切なサインです。
職場が整理整頓されている
病院は物品が多いので、完璧に整っていることは難しいかもしれません。
しかし、働きやすい職場はやはり「一定の整理整頓がされている」ものです。
たとえ物が多くても、必要なものがすぐに取り出せるように管理されていたり、見やすく配置されていたりする。こうした小さな工夫が、日々の仕事のやりやすさにつながります。これは結構チェックしやすいポイントです。
待遇は平均以上である
待遇の面も無視できません。
良い職場というのは、少なくとも「平均的な水準を下回らない」傾向があります。給与や福利厚生がきちんと整っていて、「働きやすさ」を大事にしているところはやはり安心です。極端に高待遇でなくても、安定した条件が揃っているだけで十分に良い職場といえるでしょう。
目に見えない良さ ― 有給休暇や急な休み対応
良い職場というのは、給料や待遇の数字だけでは測れません。
実は「目に見えない良さ」が働きやすさに直結していることが多いのです。
有給休暇
その代表が 有給休暇の取得 です。
本来、有給休暇は誰でも取れるのが当たり前のはずですが、医療業界では「有給なんて取れないのが普通」という異常な状況が長年続いています。先生方も実感されているのではないでしょうか。
逆に「有給をちゃんと消化できる職場」は、それだけでかなり優良であるといえます。
有給休暇は金額に換算すると非常に大きな価値があります。例えば、1日あたりの労働の価値を仮に 7万円 とします。
- 10日間の有給休暇があれば、それだけで 70万円 に相当します。
- 常勤で6年半以上勤務すれば、年間20日もの有給休暇が取得できます(労働基準法第39条により、どこの職場でも)。その場合、単純計算で 140万円の価値 があるわけです。
年収が高くても有給が取れなければ、この価値をまるごと捨てているのと同じです。
逆に「全部消化できる」職場であれば、140万円分の休暇をしっかり享受していることになります。しかも、休暇を休養にあててもいいですし、もし希望すればアルバイトで外来や当直をして「ダブルで稼ぐ」ことだってできます。これは実際、医師だからこそ可能な柔軟な働き方だと思います。
急な休みに対応できるかどうか
もう一つ大事なのが、急な休みに対応できる体制があるかどうか です。
例えば、
- 子育て中の先生であれば「子どもが急に熱を出した」
- 介護をしている先生であれば「親の容態が急変した」
- 自分自身が体調不良になった
こうしたときに、「代診を立ててもらえる」「急に穴をあけても何とかなる」という仕組みがあるかどうかで、日々の安心感がまったく違います。
逆に、自分しかいない外来や当直体制の職場では「絶対に休めない」という大きなプレッシャーが常につきまといます。これが積み重なると、心身の負担が一気に大きくなります。
附属保育や柔軟なサポート
また、子育て中の先生にとっては 院内保育の有無 も非常に大きいポイントです。
保育園の待機児童問題や、延長保育が難しいといった現実的な課題がありますが、院内保育があれば預けやすく、急な延長にも対応してもらえることが多いです。結果として「働きやすさ」が格段に上がります。
これも実際に、「院内保育があったから常勤を続けられた」「子どもの送迎を気にせず働けた」という声をよく耳にします。
医師を大切にしてくれる職場
やはり、人として大切に扱ってくれる職場は居心地が良いものです。
特に、医師をリスペクトし、丁寧に対応してくれるところでは、自然と働きやすさを感じられます。
傾向としては、医師の数が少ない地域では「医師を大切にする文化」が強いこともあります。ただし、都会でもそうした文化を持つ医療機関はあります。逆に注意が必要なのは、母体が医療以外の業種であるケースです。自由診療の一部では、医師が「駒」として扱われてしまい、尊重されにくい環境もあると聞きます。もちろんすべてではありませんが、事前に見極めが必要だと思います。
実例:席を立ってくれる職場
実際に私が見学した病院での体験です。
見学が終わって帰るとき、特に関係のない職員の方々が、それぞれの仕事を一旦止めて立ち上がり、私を見送ってくださいました。とても丁寧な対応で、心が温かくなったのを覚えています。
この時の現場では院長先生のお人柄も大きいと思いましたが、そうした雰囲気は組織全体の文化として根づいているのだと思います。「医師を大切にする姿勢」が自然に出ている職場は、やはり良い職場だと感じました。
現場を見てみる大切さ
もちろん、見学だけで全てがわかるわけではありません。
ですが、実際に現場を訪れて「空気を感じる」ことは非常に大切だと思います。求人票やホームページで「良さそう」と思った職場でも、実際に行ってみると「ちょっと違うな」と感じることは実際にあります。逆に、あまり期待していなかった職場が実際に訪れてみると意外に良い、ということもあります。
やはり、現場を直接見て得られる印象は、先生にとって大事な「真実」なのだと思います。常勤など腰を据えて働く場合は、できる限り見学に行くことをおすすめします。
まとめ
良い職場を見極めるためのポイントは、今回挙げたものでまとめると以下のようになります。
- スタッフの表情が生きていること
- 整理整頓された環境
- 平均以上の待遇と目に見えない支援体制
- 医師を大切にする文化
- 現場を訪れて感じられる雰囲気
これらが揃っている職場は、総じて働きやすく、長く続けられる傾向があると思います。
結局のところ「現場を見て、自分自身がどう感じるか」が一番の判断材料になるはずです。先生ご自身の直感も含め、ぜひ大切にしていただきたいと思います。