
非常勤での働き方は、医師にとって非常に有効な選択肢の一つです。労働時間が明確で、契約条件も守られやすく、QOLの改善につながるケースも多いでしょう。
ただしデメリットも存在します。その代表的なものが、雇い止めにあう可能性があるという点です。常勤に比べて雇用の安定性は低く、極論すれば「日雇い労働者」と同じような不安定さを抱えることになります。
このリスクについては、注意点や取れる対策がありますので、それを理解した上で選択することが重要です。
非常勤医師は極論すれば「日雇い労働」
非常勤の働き方は確かに有効ですが、最大のリスクは雇用形態の不安定さにあります。
多くの非常勤勤務は半年~1年単位などの有期契約で、契約更新がどうなるかは直前までわからないことが少なくありません。本来は契約書に「更新しない場合は2〜3ヶ月前に通知」といった規定がありますが、実際には更新直前の1ヶ月前に急に更新しないと告げられるケースも存在します。
更新されない理由として多いのは、病院側の経営状況の悪化や、常勤医師の補充によって非常勤の仕事が不要になってしまう場合です。労働基準監督署に相談すれば多少の補償は得られる可能性がありますが、仕事自体を失うことに変わりはありません。
勤務先を分散する
非常勤勤務でリスク対策の一つとなるのが、勤務先を分散することです。
例えば非常勤で週3日働いている場合、その職場が突然なくなると一気に週3日分の収入が消えてしまいます。これは大きな打撃です。
そこで、週4日の勤務を組むなら、
- 週2日は病院
- 週1日は診療所
- 週1日は美容クリニック
といった形で勤務先を分けておくと、どこか1つを失っても残りの勤務先で収入を維持できます。
仮に週2日分の収入が残れば、医師であれば生活費が急に払えなくなることはまずありませんし、蓄えがあればなお安心です。そうした意味でも、勤務先の分散は非常勤医師にとって大切なセーフティーネットになるといえるでしょう。
お金の対策をする
非常勤勤務で一番問題になりやすいのは、やはりお金の部分です。
医師が働く理由は必ずしもお金だけではなく、社会貢献や自己実現の意味も大きいですが、生活の基盤として収入は欠かせません。困るのは、収入が突然途絶えた時です。
常勤の場合は、病気や家族の事情で休む必要があってもある程度の保証があります。社会保険も維持され、簡単に解雇されることはありません。
しかし非常勤は、フリーランスに近い存在であり、社会的保証も乏しく、職を失うリスクが常に付きまといます。だからこそ、お金の備えが非常に重要になります。
対策の具体例
- 生活防衛資金を確保する
収入が途絶えても一定期間耐えられるだけの貯金を用意しておく。 - 資産運用を取り入れる
個別の高配当株や、時間がない先生はETF(例:VYM、HDVなど安定性の高い商品)を積み立てて、不労所得を育てる。(参考記事→医師の投資先 その1 医師の投資先 その2) - 収入源を分散する
複数の勤務先や副収入を持つことで、一つの仕事を失っても即座に困らない体制を整える。
非常勤で働く先生ほど、日常的にお金の対策を考えておく必要があるのです。
無期転換ルールについて
非常勤勤務でネックになるのが「雇用期間の有期契約」です。
しかし実は、同じ医療機関で 5年以上継続して有期契約を結んで勤務した場合、労働者は無期契約へ転換できる権利があります。これは労働法で定められている「無期転換ルール」と呼ばれる仕組みで、労働者にとって非常に有利な制度です。(参考記事→5年以上で期間の定めのない契約に移行できる)
ポイント
- 対象:同じ医療機関で5年以上、更新を重ねて勤務している非常勤医師
- 方法:本人が申し出れば、有期契約から無期契約に転換できる
- 医療機関の対応:法律上、医療機関はこの申し出を拒否できない
さらに、無期転換を申し出ても、給与や仕事内容を不利益に変更することは認められていません。
「無期転換を選んだから給与を下げる」「仕事内容を急に変える」といった対応は、労働法上違法です。もしそのような不当な扱いを受けた場合は、労働基準監督署に相談すれば速やかに是正されます。
無期転換ルールは、非常勤勤務を続ける先生にとって覚えておいて損のない制度です。いざというときには、安定した働き方を確保する手段として活用できるでしょう。
5年で雇い止めにあうリスク
無期転換ルールは労働者にとって有利な制度ですが、実際にはこの制度を避けるために、非常勤医師を5年以上雇わないようにしている医療機関もあります。
なぜなら、5年以上勤務すると医師が無期転換を申し出た場合、病院側は拒否できなくなり、契約解除が極めて難しくなるからです。医療機関にとっては、多少厳しい状況になっても簡単には解雇できない存在になってしまいます。
本来、制度回避のために「5年で雇い止めにする」ことは労働法上認められていません。しかし、実際には「他の理由」を付けて契約終了とするケースが存在するのも事実です。
これは残念ながら完全に防げるものではなく、非常勤勤務を選ぶ上での現実的なリスクの一つと理解しておく必要があります。
健康リスク
非常勤勤務で実はもっとも大きなリスクは、健康を損なうことだと私は考えています。
非常勤は社会的な補償がほとんどなく、病気やケガで働けなくなった時点で収入は途絶え、保証も得られません。
例えば脳梗塞で麻痺が残り、通常の強度の業務が難しくなった場合を想定します。
常勤であれば、傷病手当が一定期間支給され、場合によっては仕事の強度の低い関連施設での業務を紹介してもらえたり、外来勤務でも患者数を配慮してもらえる可能性もあります。
しかし非常勤では、**「従来どおりの仕事ができない=仕事が得られない」**に直結します。
週5日バリバリ非常勤を掛け持ちしていた先生でも、体調を崩して同じレベルの業務が難しくなった瞬間に、一気に仕事を失うリスクがあるのです。
これこそが、非常勤という働き方における最も深刻なリスクではないかと思います。
まとめ
非常勤勤務はメリットも多く、工夫次第では医師にとって有効な働き方です。
ただし常勤に比べて雇用の不安定さという大きなデメリットがあることは否めません。
そのリスクに対しては、
- 勤務先を分散する
- お金の備えをしておく
- 労働者としての権利や法律を理解しておく
- 健康には十分気をつける
といった対策で、ある程度回避することができます。
「転職」と聞くと常勤を前提に考える先生が多いですが、非常勤という選択肢も十分にあり得ます。実際、非常勤と医師の相性は良く、工夫次第で給与やQOLを両立できる働き方になり得ます。
常勤しか想定していなかった先生にとっても、非常勤をキャリアの選択肢に加えることが、今後の働き方を考える上で参考になれば幸いです