
お金のため、生活のため
実際のところ、働く理由で一番多いのは「お金のため」「生活のため」だと思います。世間的には「お医者さん=お金持ち」というイメージが何故かいまだに強いですが、先生方も実感されているように、普通の勤務医はそこまで裕福ではありません。税金も重いですし、学会費や医学書代、研修費など出ていくお金も多く、むしろ支出は一般の方より多いくらいです。ですから「お金が全然貯まらない」という先生も少なくないはずです。
「医者でお金持ち」と言われる方の多くは、もともと実家が裕福で、相続や贈与を受けているケース、あるいは開業して成功した先生でしょう。逆に、奨学金を抱えて返済している先生も今は本当に多く、30代で貯金がほとんどないというのも珍しくありません。
その他でお金を持っている医者は、転職で収入を増やして上手に資産形成した方、または医師同士の共働きで「パワーカップル」となって高収入世帯を築いた方、そういったケースではないでしょうか。
でも、それだけじゃない ― 自分の人生のため
ただ、医者が働く理由はお金だけではありません。志を持って医師になったのですから、臨床が好きだから続けている先生もいますし、経済的には働かなくても暮らせるけれど、社会貢献や、社会とのつながりのために働き続けている先生もいらっしゃると思います。
その場合はフルタイムでなくても、非常勤で週1〜2回外来をするなど、自分に合ったペースで続ける先生が多いです。臨床スキルを維持できますし、収入も得られますし、社会との関わりを持つことは精神的な充足にもつながります。
こういう先生は、「疲れたらいつでもやめられる」という余裕を持って働けるので、職場でもスタッフに優しく、寛容な気持ちで接することができるでしょう。これはとても理想的な形だと思います。無理せず自己実現や社会貢献をしながら収入も得る――これが一番よい働き方ではないでしょうか。
医者とFIRE(ファイア)
近年「FIRE(経済的自立・早期リタイア)」が流行していますが、医者とFIREの相性はどうなのか。私は、完全なFIREよりも「セミFIRE」こそ医者に合っていると思います。
医者が完全に臨床を辞めてしまうのはもったいないですし、多くの先生は望んでいないはずです。むしろ戦略的に資産を築き、フルタイムをやめて、非常勤などで自分のペースで働きながら生活していく。それが現実的で理想的な形でしょう。
医者は収入面では恵まれている職業です。戦略次第では10年以内にFIRE達成も十分可能です。特に独身で生活費が少なければ、20代から資産形成を始めて30代で早期リタイアを現実にすることもできます。
お金に追われる生活は避けたい
一方で、実際には「働かないと生活できない」「来月のローンが払えない」という状況に追われる医師も現実には多い、というよりほとんどだと思います。もちろん私もその一人です。医師は収入が多い分、支出も多くなりがちです。学会費や医学書代、研修費などが重なれば、若い時期は貯金が難しいのも当然です。
問題はその後です。20代から年収1,000万円近く稼ぐ人も珍しくないため、「使うのが当たり前」という感覚が染みつき、貯金する習慣が身につかないまま40代・50代を迎える先生が実は少なくありません。その結果、老後資金が不足し「辞めたくても辞められない」状態になってしまうのです。
これまでは医局や病院のつながりで定年後も仕事を紹介してもらえたり、細く続けられたりする環境がありました。しかし今後は医師の数も増えてきており、病院としては若い先生を採用したいという事情も出てきます。そうなると「いつまでも働き口がある」とは限りません。これも医師の盲点の一つだと思います。
まとめ
- 医者が働く理由の多くは「お金」や「生活のため」だが、それだけではない。
- 実家の援助、開業の成功、転職による収入アップ、共働き ― お金の背景は人それぞれ。
- ただし、多くの勤務医は「そこまで裕福ではない」のが実情。
- 社会貢献や臨床のやりがいのために続けている先生も多い。
- 完全FIREよりも「セミFIRE」が現実的で理想的。
- 支出の習慣に流されず、戦略的に資産形成を考えることが重要。
- 無理をせず、自己実現や社会参加を大切にしながら働ける環境を作るのが最善。