
シリーズ 医師転職の最適解
医師転職は先生によって、状況、希望条件が異なるため、最適解は先生それぞれで異なります。それを承知の上で、当サイトでは、経済面、QOLを最大化する方針で、医師転職の最適解を考えてみようと思います。先生が転職する際の、ひとつの参考としてご覧いただければ幸いです。今回は週5勤務、非常勤での最適解を考えてみようと思います。
週5非常勤の最適解
=脱毛クリニック+在宅診療
週5勤務、非常勤を組み合わせるという条件では、週2日の脱毛クリニック+週3日の在宅診療というスタイルを提案します。このスタイルでのいくつかの利点を上げてみます。
脱毛クリニック+在宅診療の利点
理由1 給与が高い
脱毛クリニックは自由診療であり、保険診療と比べると給与単価が高いです。また在宅診療も保険診療の中では比較的高給であり、この2つを組み合わせることで高収入が得られます。
脱毛クリニックは日給8万円ほど、在宅診療は日給10-11万円ほどが相場です。仮に。平均日給9万円で、週5日勤務で年間50週働くと過程すると、9万円×週5×50週間=2250万円の年収となります。もちろん年末年始や祝日でこれよりも勤務日数は減るのが普通ですが、年収2000万円を目指すことはかなり現実的なラインです。在宅診療では、日給10万円を超える求人も多いので、これより高収入を目指すことも可能です。
一般的に常勤勤務よりも、給与の高い非常勤を組み合わせた方が給与は高くなる傾向にあります。常勤で年収2000万円を越えようとすると、求人はやや限られます。
理由2 QOLが高い
脱毛クリニックの仕事は拘束時間は長いものの、実働時間としては少なめで、勤務の負担は多くありません。QOLが高い職場といえます。また在宅診療も、日中は忙しいクリニックもありますが、非常勤であればオンコールなしが普通です。勤務が終われば仕事からは完全に開放されます。常勤の在宅診療ではオンコールや当直があるところもありますが、非常勤ではその心配は不要です。
理由3 保険診療のリスクヘッジ
先生の中には脱毛クリニックをいくつか掛け持って週5にした方がいいのではと思うかもしれませんが、脱毛クリニックだけでなく、あえて在宅診療を組み合わせることには理由があります。それは保険診療ができる能力を維持することで、将来的なリスクヘッジになるためです。たとえ脱毛クリニックが今のような高待遇のお仕事でなくなった際も、状況に合わせて、保険診療に切り替えることが出来ます。
事実、脱毛クリニックは経営破綻するクリニックが出てくるなど、不安定な状況です。一方で在宅診療が急に無くなるとは考えにくいですし、在宅診療で培った能力、経験は、病棟管理や外来のお仕事にも活かせるため、在宅診療以外の保険診療のお仕事に切り替えることも容易です。
もし自由診療だけの場合、働く環境がなくなった際に、やや困ることになる可能性があります。特に手技の経験がなく、問診だけの勤務だった場合は、ややリスクが高いです。総合的に考えて、保険診療の能力は持っておくべきだと、私は考えています。
理由4 働き方を選びやすい。
上の例では、脱毛クリニック週2日、在宅診療週3日という提案をしていますが、もちろん比率は先生の好みや状況に合わせて変えることが可能です。在宅診療の日を増やして、日給単価を上げることも可能です。
今回の前提条件からややブレますが、勤務日数も週5にこだわる必要はなく、週4日にして家族との時間を増やしたり、もっと頑張りたい先生は週6日にすることも可能です。転職市場の状況や、先生の環境に合わせて柔軟に働き方を選ぶことが出来ます。
理由5 変化に対応しやすい。
非常勤は組み合わせる場合は、当然全く別の、複数のクリニックを掛け持つ形になります。そのためそのうちの一つが万が一倒産したり、雇い止めに合った場合でも一気に職を失うことはありません。別の仕事を続けながら、新たな転職先を、余裕をもって探すことができます。一方、常勤では一つの勤務先に依存することになるため、万が一職を失った場合、一気に全ての仕事を失うことになります。医師もリスクヘッジを行う時代です。一つの勤務先に依存することは、実は一定のリスクを伴う選択であります。
また非常勤を複数もっている先生は、フットワークが軽いです。もしよりよい待遇の職場を見つけた場合は、そちらに転職するのも容易です。一方常勤ではやはりフットワークは重めになりがちです。常勤の安定性も捨てがたい面はあるので、一概にどちらが良いとは言えませんが、実は非常勤勤務も、一般的に考えられている以上にメリットはあるのです。
※非常勤先は分散がおすすめ。
週2回脱毛クリニックで働く場合も、ひとつの勤務先で週2働くのではなく、週1はA美容クリニック、週1はB美容皮膚科、など分散をすることがオススメです。正直勤務先は同じ方が、働く側としては色々とやりやすい面はありますが、非常勤のリスク分散のメリットを活かすためにも、勤務先は分散が基本です。1日毎に職場を変えるのはさすがに面倒と思いますが、少なくとも3つほどには分散した方が私は良いと考えています。
非常勤のデメリット
非常勤を組み合わせる働き方は、私もイチオシの方法ですが、一方でデメリットもあります。
以下で解説していきます。
デメリット1 社会保険料の管理
非常勤勤務でどんな先生にも関係する、デメリットは社会保険料をご自身にて管理する必要があることです。社会保険料は非常勤の場合、国民健康保険と国民年金になります。これらをご自身にて納付する必要があります。また先生の年収では、国民健康保険はほぼ確実にMAXになり、負担額が割高になります。これらは社会保険税と表現されることもあるくらいですから、税金と割り切って納付するしかありません。
割高な社会保険料を節約する方法もありますので、こちらについては、別記事にて触れてみます。(参考記事→非常勤の最適解 応用編(マイクロ法人戦略))
ちなみに常勤よりも、非常勤を組み合わせた方が給与が良いことに疑問を持った先生もいらっしゃると思います。そのカラクリの一つは社会保険料にあります。常勤の先生は社会保険料は健康保険と厚生年金になります。かなりの金額が毎月差し引かれているかと思いますが、実は、それは実際の納付額の約半額です。常勤の先生が例えば10万円、社会保険料で差し引かれている場合は、もう10万円は病院が負担し、合計20万円を国に納めています。常勤の場合、額面上の年収よりも、実際はもっと病院側の負担が大きいのです。
その一方で、非常勤の医師には社会保険料を負担する必要もないので、その分給与が上乗せされていると考えられるでしょう。
デメリット2 確定申告
上の社会保険料のことと少し被りますが、非常勤の面倒さは、お金の管理をご自身でしっかり管理する必要があることでしょう。給与を複数の勤務先からもらっている非常勤のスタイルでは確定申告が必要になります。多くの先生には経験がないかもしれません。
しかし実は一見敷居が高そうな確定申告ですが、手順を踏めば、まったく難しいことはありません。年末から年始にかけて各勤務先で発行してくれる源泉徴収票、ご自身で納付した社会保険料の控え、ふるさと納税の領収書など、必要な書類をしっかり集めて管理しておけば全く難しくないです。一番注意が必要なのは、書類を無くさないようにするだけです。必要書類があれば、数値を国税庁のにあるフォームに打ち込んで行くだけで、簡単です。
デメリット3 雇い止め
非常勤はフットワークが軽く、再転職も容易ですが、それは雇う側にも言えることで、雇い止めも常勤よりはるかにリスクがあります。もし医療機関の経営に問題が出た場合、真っ先に職を失うのは、常勤の先生ではなく、非常勤の先生です。労働者として常勤医師は非常に強固に保護されていますが、非常勤は違います。雇い止めにあうリスクについては、常に念頭に置く必要があるでしょう。
非常勤の給与が、常勤よりも有利な理由はここにもあります。常勤医師はよっぽどのことがない限り、経営が例え傾いても、解雇は非常に難しいです。しかし非常勤医師は、手順を踏めば雇い止めに合った場合も、抵抗することは、常勤医師よりは困難になります。安定性をやや犠牲にすることでも、非常勤医師は給与が優遇されていると考えられるでしょう。
デメリット4 転職市場のチェックが必要
上記のように、いつ雇い止めにあって、再転職が必要になるかわからないため、転職市場は常にチェックする必要があります。これは他に様々なメリットを有する非常勤の宿命かもしれません。転職市場をチェックして、他によい勤務先があればいつでも移ろうという気概のあるフットワークの軽い先生には特に苦にならないと思いますが、どっしり安定性を求めたい先生には、負担となるでしょう。そのような先生には常勤勤務のほうがQOLが高いかもしれません。
デメリット5 安定性に欠け、今後の動向はわからない
常勤より非常勤の方が給与が良いという状況は、社会保険料の負担と、雇用の安定性を犠牲にした結果と考察されます。国民皆保険、年金制度、労働基準法など、国の構造的な問題が複雑にからみ合う問題のため、急にこの状況が変わるとは考えにくいかもしれませんが、今後どうなるかは誰にも予測できません。もしかして状況が変わって、常勤勤務の方がメリットが大きくなる可能性も否定できません。その場合は、元々常勤先を確保していた医師が有利となる可能性があるでしょう。
しかし先のことはわかりません。この記事を執筆している現時点では、私は非常勤の方が総合的に考えると、ややメリットが大きと考えます。この状況がまだしばらく続くかもしれませんし、どちらかに不利になる制度ができるかもしれません。常勤、非常勤にかかわらず、常に状況を察知して、変化に適応できる医師が強いことは言うまでもありません。