産業医の転職

転職を契機に臨床医から、産業医の業務に転向をお考えの先生もいると思います。産業医の資格を保有をしている先生は多いですが、それを活用している先生は少ないと思います。せっかくの資格を使いたいと思われる先生に向けて、産業医の転職について今回は考えていきます。

一般的に給与は低め 

産業医の仕事ですが、一般的な臨床と比べると、給与は低めになりがちです。経験年数にもよるところが多いですが、週5日の常勤勤務で、年収は1000-1200万円前後が相場です。純粋な産業医の仕事だけでなく、社内健診や社内診療所の業務を兼ねる場合は、もう少し良い待遇のところもありますが、給与的には一般的な医師より低めのところが多いです。

業務としては、診断、治療までは踏み込まず、初期対応が主

産業医の仕事では、診断や治療までは踏み込まない、というより踏み込めないことが多いです。産業医の実務では、社員の健康相談、残業が多い職員の面談や、メンタル異常が疑われる場合の相談を受けることが多いですが、基本的にそこで診断などは行わず、適切な診療科にご紹介することになります。社内診療所などの保険医療機関を併設していない場合、処方もできません。これはある意味気が楽と考えられるかもしれませんし、出来ることに限りがあることで、もどかしさを感じる先生もみえると思います。

しかし産業医が行うことができる範囲には、限りがあるのが実情です。休職した社員の復帰を判断する場合でも、主治医の意見に加え、管理部、人事部の責任者と話し合いで決めていくことになり、先生の意見も大事な見解として尊重されるとは思いますが、臨床での主治医の決定権とはだいぶ異なる印象です。

産業医は医師というよりも、企業の一社員、一人の専門家としての役割を求められる場面が多い気がします。臨床医とのギャップに最初は戸惑われる先生もいらっしゃると思います。

カウンセリング業務が多い

産業医の業務で実務上多いのは、長時間労働やメンタル不調が出た社員の面談です。精神科のレベルのカウンセリングが求められることはなく、通常の問診のレベルで問題ないです。企業によってはカウンセラーさんも在籍しているので、連携して仕事をすることもあります。メンタル不調で投薬が必要なケースでは、近隣の精神科に紹介する流れが多いと思います。

週4日、時短勤務もある

産業医は週4日の案件や、16時までの時短勤務の募集もわりとあります。労働負荷も少なめなので、家庭とも両立がしやすいと思います。またGWや夏休みなどの長期休暇をしっかり取得できることを売りにしている求人もあります。病院勤務と違って病棟を受け持つわけではないので、ここらへんは気が楽であり、メリットだと思います。比較的労働条件としては、働きやすいところが多いので、先生が気に入れば長く勤められる可能性が高いです。

大企業では タイミングによる

産業医の転職での難しいところは、大手のメーカーや、大企業の案件は、募集があるかどうかが、タイミングに依存する点です。大企業では待遇や福利厚生もしっかりしているので、産業医業界では人気の案件になります。そのためタイミングによっては、希望するような企業の求人が全く出ていないこともあり、そこが転職では難しいところです。また求人の絶対数がそこまで多くないため、優良求人はすぐに埋まってしまいます。

勤務地が工場がある場所など、やや不便なこともある

産業医で、常勤で募集をかけているところは、工場などで一定数以上の労働者を抱えているケースです。メーカーの工場なども多く、その場合、地理的に場所がやや不便な地域であることがあります。車がないととても通勤できないことも普通です。先生の自宅から通勤に不便である可能性があり、ここが産業医転職で難しいところの一つです。引っ越しが可能な状況であれば、特に問題ありませんが、ご家族等の事情で引っ越しが出来ない場合、遠方でも通うか、諦めざるを得ないケースもあります。また全国規模の企業では転勤の可能性もあります。

純粋な産業医はあまり募集がない 

実は、産業医の業務に特化した募集というのは思った以上に少なく、健診医とセットで産業医の業務が付随してある募集の方が多いです。特に健診の業務に抵抗がない先生には良いでしょうが、入職してみたら、ほとんど健診医だった!というような可能性もあるので、業務内容は入職前にチェックが必要です。

産業医に特化した業務を行いたい場合は、やはり大企業の産業医の方が良いと思います。大企業では産業医も複数人在籍していますので、学べる環境としてもよいです。

社内診療所兼ねるところだと、臨床医としての対応もあり! 

求人によっては、産業医に社内診療所を兼務してほしいという募集もあります。社内にある診療所なので、その企業の従業員しか基本的に来ず、またそこまで重い対応はなく、かぜの診察や、生活習慣病のdo処方がメインですが、こちらも確認した方がよいでしょう。内科外来の経験がないことを気にされる先生もいらっしゃるかもしれませんが、こちらについては過度に心配しなくても良いと思います。

資格あれば 経験不問も

産業医は資格をお持ちの先生は多いものの、産業医業務そのものは経験がないという先生が多数だと思います。産業医は講習を受ければ誰でも取得できてしまいますが、実務経験を積む機会は実は多くありません。しかし産業医の募集では、資格を持っていて、なおかつ普通の臨床経験があれば特に問題ないケースも多いです。仕事はやりながら覚えていくというスタンスでも特に問題ないと思います。産業医の仕事は企業によって業務内容や熱量も異なります。経験があっても他の企業の経験が必ずしも活かせるとも限りません。どうしてもローカルルールもあるので、経験よりも、その場所で適応できる方が大切だと思います。

現状では、産業医の転職はありかどうか?

産業医の転職は現状ではありがどうかという議論ですが、現状では産業医にこだわる理由はないような気がします。特に新規で産業医を取得して、その上で転職活動をするというのは、コストパフォーマンス的にも微妙で、わざわざそのようなことをするのであれば、求人数も多い健診業務に特化した転職の方が私個人としては良いと思います。

ところで産業医資格はどう取得するのか

産業医の資格ですが、こちらは試験などはなく、単純に講習を受ければ取得可能です。産業医科大学で1週間ほどの集中カリキュラムで取得もできますし、医師会の講習などで地道に単位を取得して資格を得ることも可能です。私は3日間の集中講座を2回に分けて取得しました。大学の講義のような感じで、一部実習もあります。最初は新鮮で楽しかったのですが、半日もしないうちにずっと座っていることで、飽きが来て、腰も痛くなり、ある意味大変でした。病院負担で取得させてもらえるようなケースでは良いですが、わざわざ新規に取りに行くメリットは、現状では多くないかもしれません。実務経験は別として、産業医資格を持っている先生はかなり多いため、特に差別化できる資格でもないためです。更新も5年毎で、意外に維持費や手間もかかります。

非常勤でかけ持つと結構よいらしい

これは産業医を取りに行ったときに、実際に産業医を行っている先生がお話していたことですが、非常勤の産業医の案件を多く抱えると、お金的には結構良いらしいです。非常勤の産業医では、実際に訪問するのは月に一回で、時間もせいぜい数時間です。一日に複数の案件をかけ持ちすることも十分可能です。その先生曰く、訪問日以外でも、いつでもメールで相談して良いとしているそうです。しかし実際に相談が入ることがほとんどなく、負担は大きくないそうです。このようなスタンスでいると案件を確保しやすく、また一度顧問として確保すれば、安定して収入が確保できるため、産業医もなかなか良いとおっしゃっていました。

私の経験 

私は産業医を専業で行っていた経験はないのですが、病院の産業医として業務を行っていた経験はあります。通常の企業とは事情が異なるので、やや特殊な例になるかもしれませんが、ご紹介してみます

私が行っていたのは、月に一度の労働安全の会議と、メンタルでの休職となった職員の面談、病気休暇をした職員の復帰面談でした。会議については一時間ほどで、特に普通の会議といったところです。産業医としては健康診断の項目でコメントを求められるくらいでした。

職員の面談も全て行うのではなく、主に他の労働安全のメンバーが行ってくれていて、その中でも医者が面談した方が適切なケースのみ依頼を受けて、行っていました。数ヶ月に一件ほどだったので、そこまで負担にならず、また精神科受診が必要なケースは併せて行っているため、診断、治療は精神科の先生にお任せし、産業医としては職場にどう戻るか、今後どのように注意していくかということが主でした。私は特にカウンセリングのトレーニングが受けたことはありませんでしたが、臨床経験があれば問題なく、正直に言えば(産業医取得のためには多くの講義をうけましたが、、、)産業医特有の知識もあまり使わずに対応できるものでした。

もし今度、産業医の転職を考えている先生が、病院勤務であれば、病院や関連施設の産業医の業務を引き受けて、そこで少し実務経験を積んでみるのも良いと思います。産業医は有資格者は多いものの、実務経験をもつ医者は少ないので、その経験をアピールできればかなり有利になります。

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