
先生が今の職場に入職した際にはかならず、雇用契約書を交わしているはずですが、憶えておられるでしょうか?実際のところは、入職時はバタバタしているので、必要書類にザッとサインをして、内容を細かく確認する先生は少ないと思います。しかし雇用契約書は働く上でとても大切な書類のひとつです。網羅的なことや専門的な部分は他の詳しいサイトに譲るとして、医師ならではの視点でポイントを解説していきます。
業務内容
先生が行う業務についてはしっかり明示してもらうことが重要です。雇用契約書に書いていないことは、契約外になるので、基本的に行う必要がなく、もし先生に依頼する場合は、本来は雇用契約を結び直す必要があります。
よくある例では、外来診療の非常勤で入職したものの、手が空いているときなどに救急対応まで求められることです。この場合、雇用契約書の業務内容が外来診療のみであれば本来行う必要はありません。逆に小さい文字でも、業務内容に記載があれば、行う必要がでてきます。もし救急対応には抵抗がある先生の場合では、雇用契約書にサインをする前にしっかりチェックが必要です。どうしても心配な場合は、「救急対応は含まない」などと記載してもらうと、盤石になります。似た別の例だと、また当初は外来のみの常勤で入職したはずが、いつの間にかズルズルと病棟の対応まで行っているケースもあります。
雇用契約の段階で、「基本的には外来だけれど、どうしてものときのために」という名目で、可能性がある病棟業務についてや、その他関連業務などと記載されるケースも多いです。これは結構やっかいです。記載があれば、求められた場合、断ることが難しくなります。ただ、どうしてもできない業務などについては、上のように〇〇は行わないというように記載してもらうほうがよいです。後でも触れますが、当直、オンコールについては別途で明示をしてもらいましょう。
残業
残業代は本来1分単位でもらう権利があります。しかしうやむやになってしまっているケースが少なくありません。ここでは特にみなし残業について確認してみます。医師の業務は時間通りに終わることが少ないので、あらかじめ給与に残業代を見込んで計算している場合があります。非常勤の例では、日給4万円で実働3時間勤務の場合、時給は13333円になりますが、みなし残業を入れている場合例えば次のようになります。みなし残業を1時間とすると、時給は10000円で計算されており、実働3時間+みなし残業代1時間で、日給4万円と提示されます。求人票ではここまで書かれていることはまずありません。雇用契約の段階になって確認する必要があります。
みなし残業は考え方によっては、定時で帰れる場合も支給されるので、お得な感じもしますが、実際はそうでもないです。例えば求人ででている待遇が以下であるとします。
・日給 4万円
・勤務時間 9:00-12:00
しかしみなし残業を考慮すると、実際は以下のようになります。
・日給 3万円+みなし残業代1万円 合計4万円
・勤務時間 9:00-13:00
勤務時間が増えてるにもかかわらず、給与は同じです。もちろん基本的には終われば12時以降は帰宅可能ですが、同額の給与で最大13時まで拘束される可能性があるということです。
当直 オンコール
当直、オンコールは最も重要な項目になります。当直を行う場合は、頻度(週1回程度)なども記載してもらいます。当直を行わない場合ははっきりと「当直:なし」などと、記載してもらう必要があります。
オンコールも頻度や、オンコール中の手当についてもはっきりさせておきましょう。主治医制の病院だと、365日、常にオンコールで、なおかつ手当も出ないケースもありますが、それはもう時代的に現実的な働き方ではありません。このサイトをご覧になって転職を検討されている先生は、おそらくこのような条件は希望されない先生が多いと思いますが、条件は最初にはっきりさせることが重要です。最初に曖昧にしてしまうと、後から変えるのはなかなか大変です。
※風土が合わない病院は、はじめから避けるのが無難
先生もよくご存知のように、常時オンコールで、休日や、長期の休みも取れないような状況の病院もまだまだあります。近年はだいぶマシになってきたとはいえ、労働基準法が厳格に遵守されている医療機関の方が、珍しいような状況です。
転職の場合は、労働環境が明らかにおかしい場合は、はじめからその医療機関への転職は避けたほうがよいです。同じような給与、福利厚生でも、労働環境がよい職場は、探せば正直いくらでもあります。先生が正義感から頑張って、その病院の風土や、状況を変えようとするのは、上手くいく可能性もありますが、先生に余計な負担や労力がかかります。それは先生のお仕事ではありません。はじめから環境がよいところへ行くほうが絶対によいです。
日直 時間外 夜診療 土曜の救急当番
以前の記事でも少しふれましたが、意外な盲点が、日直、時間外、夜間診療、救急当番です。当直は免除の契約で入職した場合でも、これらは頼まれることがあります。
当直を免除を希望の先生の場合、大きく2パターンに分かれます。
1つ目は泊まり込みで業務を行うことのみが負担になるため、免除を希望するパターンです。こちらは当直さえなければ、日曜祝日の日直や、土曜午後の救急当番、19時くらいまでの夜診療であれば、対応可能という先生です。
2つ目は、泊まり込みの業務だけでなく、先生ひとりで病棟や外来、救急当番の対応をすることが、負担になるパターンです。中小規模の病院では、日当直は医師一人体制というところはわりと多いです。専門診療科以外の患者さんの対応も、ある程度はしなくてはなりません。平時であれば、何か困った場合でも、他の医師に相談できますが、日当直帯ではそうも行きません。ブランクがある場合や、研究で臨床を一時期離れていたケースなど、先生お一人でやや重い決断もしなければならない状況にも、ストレスを感じる先生も多いと思います。
前者の先生であれば特に問題はありませんが、後者の先生の場合、当直のみでなく、日直、土曜午後の救急当番等も含めて避ける必要があるので、特に注意が必要です。これは本当に盲点になるパターンで、入職後にこんなはずではなかった!となるケースの一つです。
※日当直、救急当番を避けたいケースの対処法
当直やオンコールの免除は相談でも可能な場合が多いですが、日直や救急当番などの上記のような状況も避けたい場合はやや難易度が上がります。特に常勤で入職する場合は、完全に避けることは難しいかもしれません。どうしても手薄になるときなどに、頼まれることがあります。一度受けてしまうと、その後もずるずると事あることに頼まれるような先生を何人もみてきました。。。なかなか難しい問題かもしれません。
完全に避けたい場合、常勤にこだわりがなければ、非常勤で入職するという手があります。非常勤の場合は、常勤よりも業務をはっきりと切り分けてもらえるケースが多いので、非常勤勤務で勤務日数を週2-3日に抑えて、いくつかの医療機関を兼務すれば、リスクを抑えつつ、上記のような業務を避けることが可能です。常勤、非常勤の違いや、メリット、デメリットは他の記事でも解説していますので、是非参考にして下さい。(参考記事→常勤か非常勤か?)
勤務時間・休憩時間
勤務時間と休憩時間は、勤務形態や業務内容で大きく変わります。たとえば9時スタートの病院でも8時45分から朝の医局会を設定しているところもあります。本来は時間外労働になりますが、常勤では無視することは難しいでしょう。常勤の方が、勤務時間や休憩時間は曖昧になりがちです。一方で非常勤の外来勤務では、時間を比較的守られることが多いです。もちろん終了時間がずれ込んでしまうこともありますが、比較的マシな方です。
勤務時間と休憩時間に関しては、特に常勤の場合、働き方の形態によっては、やむを得ないケースもあるので、あまり神経質に深追いしなくてもいいかもしれません。余談ですが、曖昧な分、医師の朝の遅刻は黙認してくれるような病院もありました。。。時間をしっかり守る先生にはメリットがないのですが。。。
決め事は必ず文書でのこす
色々と注意するポイントを挙げさせて頂きました。上記のことは、口頭での約束ではなく、必ず文書にして、条件を明確にしたうえで、証拠を残しておくことが大切です。担当者との口約束は、例えばその担当者が退職したり、部署異動になったら無効になってしまいます。後からだれがどう見てもわかるような形で残しておくことが、先生の身を守ることになります。
条件交渉は双方にメリットがある
入職前に、ごちゃごちゃと細かいことを交渉することに、正直抵抗がある先生は少なくないと思います。しかしながら、事前にできること、できる業務の範囲について明確にして、確認しておくことは、実は先生だけでなく、採用する側の医療機関にとっても、長い目でみると悪い話ではありません。
交渉する過程で、先生と医療機関の条件をすり合わせることになります。お互いに納得した上で、交渉が成立し、先生が入職すれば、先生が長く勤めてもらえる可能性が高いです。また医療機関側も先生に無理な業務を頼む必要がありません。お互いにストレスがなく仕事をすることが可能です。医療機関側の立場からすると、よい先生に長く勤めてもらえることが一番嬉しいのです。
医療機関側の立場で考えると、入職してもらったのはいいけれど、必要な業務を先生に受けて貰えなかったり、ある程度仕事に慣れたタイミングで、すぐに退職されてしまうことが、実は一番困るのです。医師とはいえ、病院が違うとローカルルールに慣れるのに、ある程度の時間は必要です。その間は通常よりも業務量が少なくても、医療機関は先生に通常の報酬を支払います。また先生を求人会社から紹介してもらうために、常勤の場合、軽く数百万円ものお金を支払っています。先生が無料で医師求人会社を利用できるのは、仲介手数料を医療機関から求人会社に支払っているためです。そのため早期の退職が医療機関側にとっては最大の痛手になります。もちろん先生側にとっても、心身共に負担になります。お互いにとって都合の悪いマッチングとなってしまい、得をしたのは、仲介手数料を得た求人会社だけとなってしまいます。これはお互いのために一番避けたいパターンになるので、転職前の条件交渉は下手に妥協せず、率直に希望をお伝えすることをオススメいたします。
もし条件が折り合わなければ、早々に他の求人にあたってみることをオススメします。第一印象でいいと思った医療機関よりも、結論としては、後から出てきた別の転職先に決まることは割と多いです。あまり執着せず、すぐ次の求人にあたってみることが、転職が上手くいくコツの一つだったりします。