
私は一時期常勤の勤務を離れ、定期の非常勤を週一と、他はスポットバイトのみで生活していたことがあります。いわゆるバイト医師というような生活でした。私の場合は短期間でしたが、そのときに感じたこと、経験したことなどを共有させていただき、参考にしていただければと思います。
初めてのバイト生活
以前転職をしたときに、2ヶ月ほどポッカリ空いてしまった期間があり、そのときにスポットバイトと、週一の非常勤だけで生活していたことがありました。週に4日ほど働き、あとは次の仕事の準備に当てたり、めったにない機会だと思い休んで、家族と過ごしたりしていました。週3日は休みでしたから体力的には十分余裕がありました。
最初は割と気楽ではありましたが、スポットバイトでは、医師に振られる仕事にも限りがありますから、行う仕事は単調化してきます。たまたま仕事内容が簡単な問診だけだったものですから、良くも悪くも、医師免許があれば誰でもできる仕事で、当然ルーチンワークとなってきました。ある意味気楽な面もありますが、単調さに耐えられない気持ちになることもありました。
医者とは全然関係ない仕事ですが、私は学生の時に倉庫でピックアップのバイトをしたことがあります。洋服を表の通りにピックアップして、箱に入れるだけという恐ろしく単純な仕事でしたが、あまりの単調さに途中から気がおかしくなりそうで、時間が異常に長く感じたのを覚えています。そこまでではないものの、バイトの仕事中は、同じような空気を感じました。単調な仕事は時間の経過が遅く感じられ、肉体的には楽でも精神的に結構辛いです。
仕事が得られるかの不安
私は短期間でしたので、先の不安は感じませんでしたが、もしスポットや非常勤だけで生計を立てようとすれば、当然先々の仕事が確保できるかという不安が生じてくると思います。一時的には割の良い仕事を得られても、数カ月後には仕事がなかなか得られない状況になっている可能性もあります。数年後などは、どこで働いているかも全く予想できません。そのような不安定な状況を楽しめる先生は良いですが、おそらく少数だと思います。常勤の仕事を離れた場合、常に仕事が得られるかという不安定さとは付き合っていくことになります。
健康面の懸念
スポットや非常勤などのアルバイトで生計を立てる場合は、健康が非常に大事です。心身を壊して働けなくなったらそこで失業し、無収入に転落してしまいます。特にスポットは容赦なしです。非常勤はまだ相談する余地がありますが、それでも切られるリスクは高いでしょう。また常勤とは違い、傷病休暇も傷病手当もありません。全て自己責任となってしまいます。これは非常に恐ろしいことです。医者の不養生とはよく言われますが、医師は案外、自分の健康に無頓着である場合も少なく有りません。私にも覚えがあります。先生も健康には十分注意して頂ければと思います。
安定した常勤が羨ましく思えることも
いざ常勤を離れてみると、常勤の頃の安定した生活が懐かしく、恵まれていたように思い出しました。常勤のうちは、仕事が忙しい割に給与が少ないとか、他の医師より明らかに仕事をしているのに経験年数の理由で評価が低いとか、臨床以外の管理業務や不毛な会議が多いとか、断れない性格のせいで何故か損な役回りが多いとか、正直不満も少なくありませんでした。
しかし、毎月決まった日に給与が確実に振り込まれ、自分が退職すると申し出ない限り失職することがない状況は、とても恵まれたものであったと思います。戻りたいかと問われれば、もちろん考えてしまいますが、悪いことばかりではなく、恵まれていた面もたくさんあったことは事実だと、心から思います。仕事も人生もないものねだりなのかもしれませんね。
そもそも組織は、清濁併せ呑んだ構造になっている
少々話がズレますが、そもそも病院という組織は、他の会社と同じで、色々な人がいる前提で作られています。こんなことを言うのは気が引けますが、正直やる気がない人や、働かない人がいても成立するように設計されています。当然そのような人ばかりでは組織は破綻してしまいますから、一定数働く人や、やる気がある人も組み込まれれる構造となっており、仕事をする人が、仕事をしない人を支えることで、全体としてバランスをとり、組織として成立しています。
そこで問題となるのは、やる気がある人、仕事が出来る人が、結果的に損な役回りを担いやすいということです。正直頑張るほど、搾取されると言っても過言ではないかもしれません。さらに問題なのは、頑張る人も、頑張らない人も給与などの評価でしっかり差をつけることが、日本の労働環境では難しいということです。ある意味、頑張る人が損をし続けて、頑張らない人ほど得をするというよくわからない構造になっています。これは病院組織だけでなく、一定規模の会社や労働現場ではみられる現象だと思います。
そのため、いま常勤の現場で頑張っている先生が、損な役回りを引き受けると感じるのは、先生が他の人を支えていて、しかも努力に見合った評価をされていないためです。多くの場合は損で終わってしまうと思いますが、逆に万が一先生が働けなくなった場合には、当然助けてもらえます。社会的な保障もあります。これをどう考えるかは、先生のお考え次第だと思います。常勤を保険として考えれば、悪くないかもしれません。非常勤やスポットでリスクを背負っても、ガンガン働いて評価されたい先生は、それもそれで有効な手法だとも思います。これは本当に個人の価値観だと思います。
何か戦略や目標がないと、スポットや非常勤は難しいかもしれない
スポットや非常勤で働く場合、明確な目標と戦略がないと、なかなか難しいかもしれません。私は自分の経験からそう思います。目標がないのに漫然とバイト生活を続けることは精神的な負荷が大きいですし、戦略がない状態で不安定な仕事を続けた結果、最悪晩年に路頭に迷う可能性があります。それなら多少不満があっても、比較的優良で働きやすい常勤先を確保して、定年まで勤めた方がよいです。
最もわかりやすい例では、資産形成を目標にしてそれに応じて戦略を立てることです。例えば「資産〇〇万円を形成するまでは、頑張って高単価な非常勤を週5日続ける」、というような場合は、ゴールも明確ですし、戦略もシンプルで妥当なものです。目標通り資産形成ができれば晩年困ることもなく、その後はダウンシフトしたり、好きな形態で仕事をすることも可能でしょう。
また他の例では、「家族との時間を最優先にしたいので、子どもが中学校に上がるまでは、時間を確保するために16時までの非常勤、週3日に抑える」というような例でも、期限が明確ですし、時期が来れば仕事を増やしたり、常勤にシフトすることも可能なので、このような例も有効だと思います。
上記のように、時期や目標を明確にして、それに応じた戦略を形成できているのであれば、非常勤はとても有効な勤務形態だと思います。一方で危険なのは、漫然と非常勤で楽な仕事を選んで、入ってきた収入は全て遣ってしまい、年齢を重ねて、スキルもやる気もなく、徐々に仕事が得られなくなってしまうが、支出は減らせず、、、というのような例でしょうか。