
転職の失敗とは、転職したことで以前よりも状況が悪化してしまったようなケースです。以前より忙しくなってしまった、目に見えない業務が多かった、聞いていた話と違った、人間関係に悩むなど、簡単にまとめると「こんなはずじゃなかった!」となってしまうパターンです。今回は転職失敗に陥りやすいパターンと、転職成功率を上げる方法について考えて行きます。
転職失敗のパターンその1
時間がない
医師転職で失敗するケースで多いのが、時間的に余裕がなく、限られた選択肢から無理にでも転職先をチョイスしなければならないケースです。これは転職で最もありがちな失敗パターンです。転職でもっとも重要な要素は、時間的余裕であると私は考えています。時間に余裕があれば、成功するとは言い切れないものの、大失敗する可能性は限りなく低くできます。限られた時間で転職して失敗する場合、先生ご本人もあまり気が進まないことを承知の上で転職しています。時間があればまず選ばない職場でも、やむを得ず転職し、やはり結果的に上手く行かないケースが多いです。
時間的に余裕がないと、そもそも転職活動に割ける時間も限られます。そのためかなり限られた求人の中から選ばざるを得ません。転職でもっとも重要で難しいことは、先生が希望する条件に当てはまる、最適な求人を探し出すことです。当然ですが、時間をかければより多くの求人情報にふれることができるため、先生にマッチした求人が見つかる可能性が高まります。逆に時間がなければ、そのときに存在する求人の中から選ばざるを得ないです。
対策:時間を確保する。
転職活動に時間的に限られている場合、状況は先生それぞれだとは思いますが、焦るとあまり良い結果は生まないと思います。たとえば現在の職場を3月に退職し、4月からの転職先を探している場合は、思い切って入職時期をずらすことが考えられます。たとえば、7月入職や、10月入職を目指して転職活動を行うのです。その間はスポットのアルバイトをしながら乗り切りましょう。たとえ貯金がある先生でも完全に現場から離れない方が、精神衛生上よいです。完全に仕事を止めると、それはそれで目に見えない焦燥感にかられます。アルバイトしながらでも転職活動は十分に可能です。転職エージェントも先生の空いているタイミングに合わせて面談を調整してくれます。
ご家族の事情や転居を伴う場合など、色々どうしても難しい理由がある先生でも、とりあえずで転職先を確保することはおすすめできません。特に常勤では、慎重に吟味が必要です。一度常勤で転職、退職をすると、かなり精神的に消耗します。たとえば4月にとりあえず転職して、6月に退職して新たに探し始めるくらいなら、初めから7月入職を目指してじっくり転職活動をしたほうが、成功率も上がります。短期間で転職、退職をすると、たとえ先生に非がないようなケースでも、どうしても履歴書の見栄えが悪くなります。何か人間的に問題があるのではないか、入職してもすぐに辞めてしまうのではないか、という印象を与えてしまう可能性があります。逆に数ヶ月のブランクはさほど目立ちません。スポットで勤務しながら、転職活動をしていたと言えば特に問題になることもないでしょう。
一番良いのは、平時から転職活動をしておく
最も良いのは転職予定がない時期から、転職の情報収集をしておくことです。求人会社への登録は特に転職予定がない時期でもまったく問題なしです。オススメはメールマガジンの登録です。登録すると希望に近い求人情報を毎日のように送ってくれます。流し読みするだけでも情報収集できます。たまに優良求人が流れてくるので、そのような情報は別途フォルダに分けてストックしていきます。転職が必要になったら、ストックの中から近いものを探して欲しいと、求人エージェントに依頼することができます。具体的な求人の例があると、転職エージェントも分かりやすいので、意思疎通がスムーズに行えます。
私は現時点では転職予定はないのですが、常に数社のメールマガジンに登録して、情報収集をしています。もし必要があれば、すぐに動けるような体制を整えておくと、精神的にも余裕を持てます。
転職失敗のパターンその2
入職してみたら、思っていた職場ではなかった。
時間をかけて吟味して、これは良いと思って転職した場合でも、入職してみたら思っていた職場でなかったという例も多いです。このケースでは、提示された給与より低かった!というようなことはまずありませんが、オンコールがほとんどないと聞いていたのに結構電話がかかってくる、有給休暇がとれる空気でない、休日にも回診を求められる、残業代がでない、人間関係が良くない、他科連携が不十分、、など実際勤務してみないと見えてこないような問題点もあります。また当初は当直なしで入職したのに、時間経過とともにいつの間にか求められるようなこともあります。あと盲点は、当直なしのかわりに日直や夜間診療などを替わりに求められるなどのケースもあります。(参考記事→求人情報のみかたを解説 の条件の交渉についての項)
対策:実際に働いている先生に話をきく
「おもっていた職場ではなかった!」ということを防ぐ最善の策は、実際に勤務している先生から直接話しをきくことです。(参考記事→入職前に実際に現場の医師に話をきく)
このひと手間を行うことで、思っていた職場でなかったというリスクをかなり避けられます。医師のインタビューは得られるものが多く、時間もかからないので、私としては常勤勤務の場合は必ず行った方がいいと思います。(週一の非常勤でそこまでするのは、面倒だと私も思いますので)
もし転職がうまく行かなくても、どうか諦めないで!
色々対策を講じても、転職はどうしても人間同士の関係もあり、努力ではどうにもならない面もあります。時間をかけて、色々な求人を比較して、実際に働いている医者にも話を聞いて、良さそうだと思って入職したけれど、結果的に上手く行かないケースがないわけではありません。
私がこの記事で最も伝えたいメッセージは、どうか転職で上手く行かなくても、悲観したり、諦めたりしないで欲しいということです。多くの場合、先生に非があるものではなく、先生と医療機関とのミスマッチです。特に何かが悪いというわけではなく、相性が良くなかったというだけです。こればかりは先生が実際に入職してみないと分からないことです。
また先生は医師なので、転職に失敗しても、履歴書が多少見栄えが悪くても、どうにでもなります。少なくとも食ってはいけます。完全に職を失うことはまずありません。まずはそのことを忘れず、どうかネガティブにならないで、次のために動き始めていただければと思います。もちろん疲れている場合は、回復するまで十分休んで下さい。
一度実際に転職をされたことで、他の医師の体験談や、このサイトにあるようなことを読んだだけでは得られない知識、経験を得られたことと思います。それは非常に貴重な経験です。やはりご自身で体験した経験から得られるものに勝るものはありません。どうかその貴重な経験を、次の機会に活かしていただければと思います。
私も社会に出た後、転職の過程で何度も失敗を繰り返してきました。はっきり言って私の履歴書はめちゃくちゃです。多くの先生は私より遥かに立派な経歴です。多少転職に失敗したくらいでは、全然私より見栄えがよいはずです。
私は自分の失敗から、その経験やそこで得たことを共有することで、先生には可能な限り幸せな転職、医師生活を送って頂きたいと考えています。それが当サイトを立ち上げた原点です。
自身の失敗談
私も何度も転職して、数多くの失敗談があります。ひとつ私の失敗談を先生の参考にしていただければと思います。
私が転職に失敗した経験で、これはまずかったと思うことは、やはり焦って転職してしまったことです。焦ってしまった原因は、無職の期間に自分の精神状態がうまくコントロール出来なかったことだと思います。
その当時は、私は仕事にかなり疲れてしまっており、しばらく休むつもりで退職しました。次の転職先のことはまったく考えず、とにかく休もうという気持ちでした。少なくとも2-3ヶ月は何もせずに休んで、それから今後のことを考えようと気楽に構えていました。臨床に戻るかどうかも迷っていたような時期でした。
退職してから、それまでの忙しかった毎日から、急に何も予定がない、時間を持て余す日々が始まりました。今まで行けなかったところへ行ったり、読めていなかった本を読んだり、色々やりたいことはあるつもりでした。自分の人生を取り戻せるのではないかと、社会人になって初めての長期休暇に淡い期待を抱いていました。しかし私はその時人生で初めて、社会的な居場所、所属先を完全に失ったことに気づきました。これは体験してみないとわからないと思います。言いようのない焦燥感にかられ、休暇を楽しむような状況ではまったくありませんでした。休みを喜んでいたのは、数日もなかったように思います。すぐに暇な時間に耐えられなくなりました。家にいたら本当にだめになると思って、無理にでも外出して、気分転換するように努めましたが、外でも今後の仕事のことや、将来の不安ばかり考えていました。あんなに嫌で仕方なかった、仕事に戻りたいとさえ思うようになりました。自分でも不思議です。知らないうちに私は仕事に依存して生きていたのです。
いまから振り返ると、スポットのアルバイトなどで、少しでも社会と関わりを持って収入も得ていれば、ここまで焦燥感にかられることはなかったかもしれません。先生に転職期間中もアルバイトをおすすめするのは、金銭面というよりも、社会とのつながりを保ち、精神的に安定するためです。転職活動に集中するには、逆説的ですが、少しでも仕事をしながら行うことがオススメです。
その後、私はとにかく動かなければと思い、いくつかの求人会社に一気に登録して、転職活動を開始しました。しかしそういう時こそなかなか上手く行かないものです。正直に言って、私が心から転職したいと思う職場は見つからない状況が続きました。今思うと、自分が本当に何がしたいのか、どのように医師としてキャリアを形成したいのか、ひいてはどのような人生を送りたいのかなど、自己分析が十分にできていなかったことに原因があると思います。自分の希望が明確になっていなければ、どのような求人を探せばよいかも自分でもよくわかりません。とりあえず、私が就職できそうな求人をなんとなく探している状態でした。転職活動というよりも、無職の医者が漂流しているような状態でした。(参考記事→転職希望条件のリストの作成)
そんな状況で上手くいかないことは誰にでもわかります。結局自分が雇ってくれそうな医療機関を、エージェントにいくつか紹介してもらいました。本音ではあまり気が進まなかったものの、それを自分でも自覚していましたが、無職の状態に私は耐えられませんでした。そんなときに転職エージェントからの、とりあえずここに転職して落ち着いて、もし合わなければまた、転職を考えたらいかがですか?という甘言に乗ってしまいました。転職エージェントも仕事なので、そう言わざるを得なかったと思います。全ては私の責任です。当然のようにその転職は失敗に終わりました。常勤転職で短期に退職することとなり、精神的にもかなりダメージを負いました。その後のことは書くと長いので、今回は省略しますが、結局は他の医療機関に転職して、そこは優良な病院だったので、結局長く勤めました。
今回のことで、先生にお伝えしたいことは、決して焦って転職する必要はないということです。焦ると逆に私のように回り道をすることになりかねません。転職の際はどうか可能な限り十分時間を確保して、決して焦らず、心から働きたいと思う職場が見つかってから転職して頂きたいと思います。そして可能であれば、転職予定がない平時から、転職に備えて情報収集をして頂くことをおすすめいたします。