
メンタルが折れそうなとき
医者の仕事って本当にいろんな要素が重なります。患者さんとの関係、上司との関係、スタッフとの関係、自分のスキルや将来の不安、医者の将来性…
そういうのが一度に重なると、気持ちが折れそうになることは誰にでもあると思います。
人間関係、お金、異性のこと、成果が出ない焦り。小さなことの積み重ねで「もう無理だ」と思う時期ってあるんですよね。
特に激務で体が疲れ切っていると、心も一気に疲れて「何もかも嫌だ」となってしまう。
そういう時は、どんな状況であっても一旦休む。
これしかないと思います。
一定経験がある先生は遠慮なく休んでいい
専門医を持っていたり、ある程度の臨床経験を積んでいる先生なら、遠慮なく休んでいいと思います。
「ちょっと仕事ばかりで疲れたから休みたい」でも構いません。2〜3か月海外旅行に行ってもいい。
そこまでやってきた先生なら、またどこでも通用します。多少メインルートから外れても、臨床医として生きていく道はいくらでもあります。
初期研修中の先生へ
特に初期研修や、専門医を取る途中の後期研修の先生は本当に迷うと思います。
初期研修を落としてしまえば保険医になれない──だから「どんなことがあっても卒業しなきゃ」と自分を追い込みすぎて、心を壊してしまう先生が実際にいます。最悪の場合、働けなくなることもあるんです。
私はその不安をよくわかります。実際に経験したからです。だからこそ伝えたいのは、「やばい」と思ったら迷わず逃げてくださいということです。
信頼できる上司に相談するのもいいし、思い切って休んでしまってもいい。両親のもとに帰ってしまうのも立派な選択肢です。
初期研修を一時中断しても、再開して受け入れてくれる病院はあります。形にこだわらなければ、卒業して保険医になる道は必ずあります。だから今「まずい」と思っている先生がいたら、どうか無理をせず、逃げることを選んでください。
私の経験
私は初期研修でつまずきました。激しい病院に入ってしまい、激務と厳しい上司との人間関係でメンタルを完全に壊したのです。 「ここでつまずいたら人生が終わる」と思い込み、ギリギリまで我慢しました。真っ暗で先が見えず、毎日「もう終わりだ」と感じていました。
幸い、たまたま休憩室で私がうずくまっているところを別の上司が発見し、これは「まずい」と気づいて受診を勧めてくれたことで、命拾いしました。結局、半年近く休みました。その後も回復には時間がかかり、本当に苦しかったです。 正直、もっと早く「無理です」と白旗を上げていれば、ここまで深く引きずらずに済んだと思います。今でもそれは反省しています。
休んだあと、結局もとの病院は辞め、中途採用で受け入れてくれる別の病院に移りました。そこは以前より労働負荷が少なく、配慮もしてくれる職場でした。そのおかげで再び仕事を続けられ、保険医にもなれました。
つまり、あの時どんなに「人生が終わった」と思っていても、実際には人生は積んでいなかったのです。
後期研修中の先生へ
後期研修中でも、つまずいてしまうことはあります。
独り立ちできるレベル――つまり「1人である程度の診療を任される段階」まで到達するには、数年の経験が必要です。その途中で立ち止まってしまう先生も決して少なくありません。
私自身も、初期研修で一度メンタルを崩し、その影響を引きずったまま後期研修でもつまずきました。その時は「もう自分には無理だ」と思い、できるだけ負荷の少ない職場に再度移りました。初期研修で中断のノウハウが合ったことが幸いし、このときは結果的に大きな傷は避けられ、細々と臨床を続けることができました。
その過程で私は開き直りました。「まともな経歴じゃない。履歴書もめちゃくちゃ。でもそれならそれでいい。バイトでも何でも、生きていればいい」と。キャリアよりも、生きて医師として続けることを最優先にしたのです。そうしているうちに、不思議と気づいたら専門医を取得していました。いつの間にか「1人でやっていける」レベルに到達していたのです。
当時は「次に折れたら臨床は辞めてもいい」と思いながら、何とかやり過ごしていましたが、振り返ればそれでも前に進めていました。開き直ってしまったことが、ある意味良かったのかもしれません。
それでも残るもの
ただ、やはり一度メンタルを壊した影響は完全には消えません。今でも引きずっている部分がありますし、あの頃の自分の判断を振り返ると反省点ばかりです。
だからこそ言いたいのです。壊れる前に逃げてください。
それは決して恥ではなく、むしろ自分を守るために必要な判断です。
この経験を聞いて、少しでも楽になってもらえたら
実はあまり語られませんが、研修やその後のキャリアの中でメンタルを壊してしまう先生は少なくありません。休職に至らなくても、心が折れかけてしまった経験を持つ先生は多いです。おそらく先生の周りにも、どこか「少しおかしいな」と感じる人はいると思います。だから決して珍しいことではないし、恥ずかしいことでもありません。
私自身、初期研修でも後期研修でもつまずいて、キャリアとしてはめちゃくちゃでした。それでも今も臨床を続けていますし、気づけば10年以上医者をやってこれました。だから言えるのは、本流から外れても大丈夫だということ。医師免許があれば何とかなります。初期研修や後期研修で失敗しても、結局どうにかなります。今は真っ暗で絶望的に見えても、5年10年経てば「そんなこともあったな」と思える日が来るはずです。
同じように悩む先生は多い
私は自分の経歴ゆえなのか、多くの「心を壊した先生」と会ってきました。どの先生もその時は本当に苦しかったと思います。けれども結局みんな臨床を続けています。むしろ人の痛みがわかる立派な先生になっている方が多い。真面目だからこそ壊れる──それは決して弱さではなく、誠実さの裏返しなのだと思います。
一方で、ニュースで若い先生が過労死してしまったり、自ら命を絶ってしまう話を見ると、本当に辛いです。「あの時の自分もそうなっていたかもしれない」と思うからです。だからこそ、こうして自分の失敗や挫折をさらけ出してでも伝えたい。「あなた一人じゃない」「大丈夫だ」ということを。
視野が狭くなってしまうとき
メンタルを病んでいるとき、人は視野が極端に狭くなります。医学的には「認知の歪み」と言われますが、実際には大したことがないはずの状況が、ものすごく悪いことのように見えてしまうのです。
「もう終わりだ」「何も良いことがない」──そんなふうに思い込んでしまいます。
でも冷静に考えれば、医師免許を取った時点で、すでに相当な競争に勝ち抜いてきたわけです。能力的にも社会的にも、一般の世界では間違いなく上位にいます。多少キャリアが遅れたり、数年ブランクができたりしても大したことではありません。健康を回復すれば、また働けるし、仕事はいくらでもあります。
医者の将来性の暗さ
メンタルが弱っているときは、「医者を続けてもしょうがないんじゃないか」「どうせ保険診療も縮小していくんだし…」と、医師の将来そのものが暗く見えてしまうことがあります。何もかも嫌になる、そんな時期もあるでしょう。
確かに医療を取り巻く環境は変化していますし、保険診療の縮小は避けられない流れかもしれません。でも、暗いのは医療だけではありません。日本全体が縮小しているのですから、それは医者に限った話ではないのです。
むしろ医師はまだ恵まれていると思います。
- 国家資格というライセンスがある
- 保険診療である意味守られている部分もある
- 自由診療という選択肢もある
これらは他の業界にはない強みです。もし保険診療が厳しいと思えば、自由診療を取り入れてハイブリッドな働き方にしてもいい。戦略次第で、やりようはいくらでもあるのです。
まずいと思ったら、離れましょう
本当にメンタルが崩れそうだ、もうダメだと思ったら、その場から離れてください。研修中であっても、初期でも後期でも、別の病院に行けばいいのです。研修中断を必要以上に恐れることはありません。
もしメンタルが限界なら、診断書を書いてもらって傷病手当を利用しましょう。収入が途切れることなく、社会保険も継続できます。ちなみに履歴書上も勤務していることにできます。
私も実際に初期研修の頃に経験しました。傷病手当は振り込みまでのタイムラグはありますが、それでも支えになります。せっかく国が保証してくれている制度ですから、遠慮せずに利用した方がいいのです。常勤という立場は強い権利を持っていますから、それを活かさないのは損だと思います。
もちろん私の経験は一例に過ぎませんが、もし若手の先生に伝えられることがあるとすれば、「まず逃げてほしい」ということです。先が見えなくて真っ暗に思える時期もあるでしょう。でも大丈夫です。きっと何とかなります。時間が経てば、状況は必ず変わります。
長い目で見れば大丈夫
例えば今、体調を崩して半年や1年休んだとしても、その後回復して10年働けば、そのブランクはほとんど残りません。キャリアで大事なのは「直近で働けるかどうか」です。今は辛くても、医師免許がある以上、人生はやり直せます。
だからどうか今、苦しんでいる先生に伝えたい。
「あなたは一人じゃない」「きっと大丈夫」「無理なら逃げてもいい」。
医者の世界は、実は思っている以上に甘い部分もあります。道を外れても、必ず戻ることはできます。
お子さんがつらそうな親御さんへ
もしご両親が「子どもが危ない」と感じたら、どうかすぐに救い出してください。仕事を止めて、実家に戻してあげてください。命を守れるのは最終的に親しかいません。
特に医師の家庭では、親御さん自身も立派な先生であることが多く、「自分もやってきたのだから」と思ってしまうかもしれません。でも、どうか無理を求めないでください。すでに医師になった時点で十分立派です。命さえあれば、その先はいくらでもやり直せます。
普段と様子が違う、上の空だ、何かおかしい――ご両親なら必ず気づくはずです。そう感じたら、ためらわず病院に電話して休むと伝えてください。連れ帰って、休ませてあげてください。
私はかつて両親に救われました。その時、両親もとても辛かったと思います。でも今はこうして仕事をして、生活もできています。あの時助けてもらえたからこそ、今があります。だから大丈夫です。
死んでしまったら、そこで全て終わりです。どうか救い上げてください。生きてさえいれば、必ず何とかなります。
まとめ
- 本当にやばいと思ったら、迷わず逃げる。
- 一旦休んでも構わない。それは戦略にもなる。
- 医師免許があれば必ず道はある。
- 最大のリスクは、心身を壊して働けなくなること。
私は初期でも後期でもつまずきました。それでも、医者を続けられています。
だから、今つらい先生も大丈夫。生きていれば必ず何とかなります。