転職最大の賭け ― 人間関係

転職においては、成功率を上げるための戦略や、良い転職をするためのコツはいくつか存在します。それらを実行することで、誰でもある程度は成功率を高めることが可能です。
しかし、どうしても予測できない要素があります。それは「人間関係」です。特に、実際に職場に入ってからの人間関係は、事前にどんなに準備や対策をしても結局は“賭け”になってしまう部分があるのではないでしょうか。私は、転職における最大のギャンブル的要素は、この「職場での人間関係」だと考えています。

これは本当にわからない

人間関係については、本当に入ってみなければわからない部分が大きいものです。
事前にできる対策はいくつかありますが、それでも限界があります。職場の人間関係は仕事において非常に重要で、たった1人「合わない人」がいるだけで、仕事に行くのが嫌になってしまうこともあります。
これは医療に限らず、どんな職業でも共通していることで、「人間関係のストレス」は仕事の悩みの上位に必ず入るといえるでしょう。

事前見学は有効だが、完全ではない

事前に病院見学をすることは、やはり重要で有効な手段のひとつです。
見学の際には、同僚となる医師や直属の上司、または同じグループで働く医師と少しでも話す機会を持つことをおすすめします。接触頻度が高い人の雰囲気を知れるだけでも、人間関係のリスクを減らすことはできます。

ただし、それでも完璧ではありません。結局見学の時間はせいぜい30分程度で、その短い時間で相手の人間性を正確に見極めるのはほとんど不可能です。あからさまに「合わない」とわかるケースはカットできても、実際に働いてみてから出てくる違和感やミスマッチは、どうしても避けられない部分が残ります。

人間関係は流動的に変わる

また、病院というのは人の入れ替わりが激しい職場です。
最初の2〜3年は良かったとしても、仲の良かった先生が異動してしまうこともあれば、逆に苦手な人が新しく入ってくることもあります。人事異動やスタッフの入れ替わりは避けられず、それによって人間関係が大きく変わることは珍しくありません。

つまり、人間関係の安定性というのは最初から最後まで保証されるものではなく、常に流動的であると割り切る必要があります。

病棟スタッフとの関係は完全に“賭け”

特に難しいのが、医師以外のスタッフとの関係です。
病棟の看護師や事務職員、その他の職員とは、病院見学の段階ではほとんど会話できません。病棟をちらっと見学する程度では、人間関係や職場の雰囲気までは絶対にわかりません。

実際にあるのが「病棟師長と合わない」というケースです。これが続くと日々の仕事がやりにくくなり、精神的にも辛く、場合によっては医療安全にも影響します。ここは本当に「賭け」の要素が強い部分です。

病院全体の雰囲気も大事

もうひとつ大切なのは、病院全体の雰囲気です。
理屈ではなく「なんとなく嫌な感じがする」という直感は、実はとても重要です。病棟が整理されていない、極端に汚れている、スタッフの目が死んでいる、笑顔がない――こうした雰囲気は職場の環境を端的に表しており、危険な職場を見極めるサインだといえます。

先生自身が「なんか変だな」と感じた場合、それは無視しない方が良いです。外から来た人間だからこそ気づける違和感もあるものです。こちらは内部のスタッフよるも先生の方が鋭敏に気づくことだと思います。

直感は大事にすべき

転職活動中に「なんかおかしい」「胸がざわざわする」「嫌な感じがする」と直感的に感じることがあるかもしれません。そしてこれは決して無視すべきではないと思います。本能的に危険や違和感を察知する力はなかなか侮れません。

特に難しいのは、転職活動が長引いているときや、条件が非常に良いときです。勤務地が近い、給与が高い、待遇が魅力的――そういうときほど「多少の違和感は我慢しよう」と気持ちを押し殺してしまいがちです。

ですが、やはり本能的に「変だ」と感じたときは、その感覚を大切にしてください。科学的に説明できなくても、理屈で言えなくても「なんかおかしい」という直感は、意外と当たることが多いのです。私自身も、直感に従って「やめておこう」と判断した結果、後から「あの時避けて正解だった」と思えたこともあります。逆に違和感を無視してしまい、後悔したこともありました。

もちろん全てがそうとは限りませんが、「違和感を覚えたときは避ける」ことは大きなリスクヘッジになると思います。

完全な職場はない、けれどベターな職場はある

もちろん「100%完璧な職場」というのは存在しません。どこかしら妥協は必要になります。
ただし「8割くらい希望が満たされている職場」であれば、十分に働きやすく、長く続けられる可能性は高いでしょう。

逆に「希望の2割程度しか満たされない職場」では、どれだけ条件が良くても長続きせず、結果的に辛くなってしまうはずです。だからこそ妥協はしても、「完全に違和感を覚える職場」にご自身を押し込む必要はありません。

探せば必ず、自分に合う程度の条件を満たした職場は見つかります。転職は人間関係というギャンブル的な要素がありますが、それでも「直感を大事にしながら、自分に合うベターな職場を選ぶ」ことが何より大切だと思います。

まとめ

転職における最大の“賭け”は、人間関係です。
事前見学や情報収集でリスクを減らすことはできますが、完全に予測することはできません。しかも人間関係は流動的に変わるため、長期的な安定を保証するものでもありません。

だからこそ、最後に頼るべきは「直感」です。
「なんか変だな」「嫌な感じがする」と思ったら、その感覚を軽視せず、自分を守るために大事にしてください。

転職は戦略と直感、その両方をうまく使いながら進めていくもと思います。人間関係という最大の賭けを意識しつつ、先生にとって納得できる転職を実現していただければと思います。