転職相談実例

今回は私が受けた転職相談の実例を具体例をあげてみていこうと思います。

A先生の状況

年齢:30歳代中盤
診療科:消化器外科
資格:外科専門医
大学医局所属中
A先生として以下で書いていきます。

相談内容

A先生は消化器外科の医師で、上部消化管を専門にする先生です。大学医局に所属し、大学院はあと僅かで卒業、外科専門医はすでに取得済みです。まだまだ手術などは行いたいと考えていますが、周りの医師でも医局を辞めて民間に移る先生や、働き方をダウンシフトして、家庭生活を優先する先生もちらほら出ているようです。A先生は未婚ですが、そろそろ家庭をもつことも考えています。現在は朝は7時前に出勤し、帰宅は22時過ぎになることがほとんどで、休みも病棟回診や研究、日当直などで休みはほとんどないような状況だといいます。この働き方は、続けても後10年が限界かと考えており、いますぐではないものの、キャリアをそろそろ考えなくてはならないと思っているとのことです。

A先生としては、数年先には医局を離れて、もう少し時間的に余裕のある民間病院に移って、外科医をしばらく続け、その後は老健などゆったり目の仕事にシフトするか、地元に戻って開業することなども考えているとのことでした。

そもそも始めの一歩がわからない??

A先生は、これまでも医療機関は何度か変わっていますが、すべて大学医局の人事によるもので、自力で転職先を探したことはありません。なので最初は何から手をつけたらよいかわからないとのことでした。

大学院での論文もまだ残っており、今すぐ転職をしたいという状況ではなかったので、ひとまず医師求人サイトに登録して、求人を閲覧できる環境にすることを勧めました。求人サイトに登録して、希望の条件で検索をかけてみていただいたところ、民間の待遇の良さに驚いたようです。今は平日は朝から夜遅くまで仕事をして、休日も日当直などで時間を取られていますが、年収としては1000万円ほどでした。もし転職した場合は、少し緩めの医療機関に切り替えても軽く数百万円は年収アップが見込める状況でした。

転職求人検索のポイント

求人検索をする際は、ひとまずは2−3社に登録して、複数社の求人を覗いて見てみることをおすすめしました。求人情報については、求人会社によって扱っている求人にかなりばらつきがあります。求人会社によって美容に強かったり、健診案件に強かったり、施設系が得意など、わりとばらつきがあります。また同じ求人でも扱っている会社によって微妙に待遇が異なるケースもあります。X社では年収1500万円で出ている求人がY社では1450万円で出ているなどです。(おそらく扱っている会社により仲介手数料が異なるためかと推測されます。)そのため求人を検索するのが1社だけだと情報に偏りが生じる可能性が高いです。情報は多いにこしたことはありませんが、できれば3社は併行してみていくことをおすすめしています。

内科をみれるか?

A先生は、直近の転職をすぐに考えているというより、今後長期的なキャリアで身の振り方を考えているようでした。特に心配されたのが、開業や、老健などの施設管理の業務を視野に入れた場合、一般内科をある程度診れるようにしておきたいという希望がありました。

もし内科をある程度診られるようにしたい場合は、そのような条件で入職を受けてくれる医療機関も意外にあることをお伝えしました。A先生は消化器外科医として、スキル、キャリアをすでに十分持っています。すでに専門を持っている先生であれば、ご自身の専門医としてのスキルを提供しつつ、内科を他の医師に教えてもらい、勉強しながら働くことは現実的に可能です。私も以前、他科でキャリアを積んだ先生が、内科の勉強のために転職してこられ、しばらく一緒に勤務したことがあります。

※内科転科の実例

他科で経験を積まれたあと、内科の勉強のために来られた先生の例をご紹介します。仮にB先生としてみます。
B先生は元々は精神科の先生で、専門医取得後もしばらく精神科で勤務されていましたが、40台半ばで、内科の経験を積むために3年間ほど一緒に勤務しました。単科の精神病院の場合、内科医が常勤していないところも多いです。明らかに専門的な治療が必要な場合は、他の病院に依頼することになりますが、そこまでの状態でないと、自院で対応せざるを得ない場合も少なくないようです。そのような事情もあり、今後精神科でも内科の知識が必要と思い、一定期間、内科を集中して勉強するために来られたようです。

当時私が勤めていた病院は、300床ほどの病院で、急性期はそのうち100床ほどでしたので、規模は小〜中規模の病院でした。その病院は内科が専門で分かれておらず、一般内科として幅広く症例を扱っていました。かつて臨床研修指定病院であったこともあり、ベテラン医師による一定の研修制度もあったので、幅広く症例も経験できることから、B先生は転職してこられました。

転科、学び直しは可能

病院によっては、転科の受け入れや、ライフイベントで一定期間、臨床を離れた先生の復帰を支援するカリキュラムを組んでいる病院も実は存在します。実はあまり医師の間でも知られていませんが、一定の需要があるのだと思います。上記のように精神科の先生が内科を学び直したり、女性医師がライフイベントでどうしても数年臨床から離れざるを得ず、復帰にもやや不安がある場合などケースなどです。

B先生の例でも、上記の病院でも転科や復職支援は、対外的に大きく宣伝しているようなものではないので、個別相談という形になったようです。特に、地方の中小規模の病院では、相談するとフレキシブルに対応してくれることがあります。最初は研修という形でも、期間が決まっていたとしても、医師不足の地域では、医者が来てくれること自体が歓迎されるのです。

今回のケースでのA先生の場合は、すでに消化器外科でかなりの臨床能力があることからも、歓迎される可能性がかなり高いです。内科を学びつつでも、外科の外来や、内視鏡、手術も可能な範囲で対応すれば、スキルをギブアンドテイクという形で病院に関わることが可能です。実際、病院としてはかなりの戦力となります。

転科や研修は探すのが難しい

難点は、このような求人は、一定数確実に存在はするものの、多くの場合、大々的に公開をしていないケースがほとんどであるということです。地方の病院によっては、ホームページもやっとあるような状態で、医師求人の情報発信を積極的に行っている方が珍しいです。このような、転科や学び直しを希望の先生の場合は、先生が自力で探すことは実際問題として、かなり難易度が高く、求人会社に探してもらうことが一番現実的です。

しかしながら、求人会社によっては、このようなやや難易度が高い求人に積極的でないケースもあります。求人会社としては、難易度が高くても、仲介手数料が増えるわけではありません。簡単な案件を数多くこなしたほうがコストパフォーマンスはよいわけです。そのためロクに調べもせずにあしらわれてしまうケースもあるようです。

また難易度が高い求人は、求人エージェントの力量にかなり左右されます。もし相手の反応の色が良くなければ、その場合は深入りせずに、あっさり他の会社に移ったほうがよいです。求人会社にも得手不得手があります。また求人エージェントの力量も、運次第のところが大きいです。大切なことは、「このような求人は確実に一定数ある」ということを、先生にご認識して頂くことです。求人エージェントによっては、「そんな求人はないですよ」と結構冷たい対応をされることもあります。しかし私は転科や学び直しをした先生の実例を何人も知っています。思うような求人が見つからず、転職活動が思い通りに行かないケースでも、どうか先生には是非諦めないで頂きたいです。

開業は?

開業については、もし将来的に地元にもどるにしても、少なくとも10年以上は先とお考えのようでした。開業の場合は、転職とはまったく別の戦略が必要になります。一昔前は地域を選べば、ある程度の集患は見込めたため、多少どんぶり勘定の経営でもなんとかなりましたが、現在はどこの地方でもある程度は大変で、地域によっては田舎でも激戦になります。開業には資金の準備、家族の協力、理解も必要です。保険診療にある程度守られているとはいえ起業ですから簡単なことではありません。非常勤など、勤務形態を工夫して勤務医でいた方が、収入もQOLもよっぽど良かった、、というような例はいくらでもあります。開業は慎重になるようにお伝えしました。