
今回は医師転職市場、医師の求人のこれからの展望について考えてみようと思います。医師も労働者である以上は、世の中の流れや、需要と供給の影響を受けます。昨今の状況からは、全体的に医師には厳しい流れが予想されます。医師求人の動向をつかみ、先生の転職に活かしていただければ幸いです。
保険診療
まずは保険診療についてみてみます。高齢化、高額な薬剤の保険適用など、医療費は増大の一途をたどっています。しかし国の財源には当然限りがあり、国としては医療費を削減の方向で進めたいわけです。保険点数は抑えられる一方で、検査費や消耗品費のコストは上昇傾向にあります。また最低賃金上昇に伴い、医師以外の医療従事者の賃金は上昇傾向です。当然しわ寄せは、われわれ医師に回ってきます。医者の給料は良くて据え置き、悪ければ下がってくことも予想されます。たとえ据え置きだとしても、社会保険料、税金の増加、物価高により相対的に医者がもらう給与は下がっています。臨床医になれば、程度の差はあれ、ある程度の小金持ちになれた時代は、確実に終わろうとしています。特に国際的にみれば、日本の医者の給与が、アメリカの標準的な正社員の給与にまでなろうとしています。
リフィル処方箋、特定疾患の除外など、開業医にも厳しい状況
2024年の診療報酬改定は特に内科系の開業医にダメージがありました。開業医でなくても、クリニック外来のお仕事をされてる先生に少なくない影響があると思われます。医師の給与は保険点数から支払われています。保険点数はダイレクトに先生の給与に影響を与えます。特に今までドル箱であった、慢性疾患で頻回に通院してくれる患者さんは、これからは国の方針で減少することが避けられない状況です。今までが多少おかしいところがあったにせよ、我々の立場から考えれば、やはり厳しい状況でしょう。
訪問診療も徐々に締め付けがある
訪問診療は保険診療の中でも特に優遇されていましたが、こちらにも徐々に締め付けが出てきています。診療点数の高さから、訪問診療を専門で行う医療機関も増えてきたこともあり、不必要に高かった点数などは、徐々に規制され始めており、今後も難しくなる見込みと思われます。ちなみに訪問診療は保険点数が複雑怪奇であり、介護保険も絡むなど、カオスな状態です。
とはいうものの、現状では保険診療ではまだ高点数は維持されていますので、他の分野に比べると待遇は良いことが予想されます。先生が訪問診療に抵抗がなければ、依然として、在宅診療は有力な転職先の候補になると思います。
また発熱患者さんに対する緊急往診もコロナ渦で話題になりました。特に深夜の緊急往診は保険点数が高いので、今後規制される懸念があります。特に小児は公費の自治体が多いので、患者さんにとってはよいですが、国としては塞ぎたい意図がみえます。
自由診療
自由診療は保険診療と異なり、国の方針に振り回されることはありませんが、市場の影響を受けやすいです。自由診療は基本的に命に関わるような病気は扱わないため、景気が悪くなれば、患者さんは減少します。また同業他社の影響を受けやすく、本当に数年先の状況も全く読めないような厳しい世界です。
しかし一般的には給与は保険診療よりも優遇されています。転職市場では、特に非常勤で保険診療の仕事と組み合わせる場合は、リスクヘッジもしつつ、給与も確保できるため有力な候補のひとつです。
医療脱毛
医療脱毛クリニックは飽和に近い状態で、都会では一駅に、複数の医療脱毛専門クリニックが乱立しているような状況です。医師の時給も平均10000円ほどでしたが、近年では時給7000円ほどのクリニックも出てきているような状況です。医療脱毛も近年は価格競争がすすみ、以前よりもだいぶ低価格で施術を受けられるようになりました。必然的に医師の給与も削られるようになってきています。
同時に自由診療に参入する医師も増えました。以前は保険診療から外れた医療を行うことに抵抗がある医師が少なくありませんでした。医師を確保することも難しく、本流から外れる分、高収入を貰えることでカバーするという図式がありました。しかし近年は、若手の医師を中心に自由診療に抵抗がない先生が増えています。参入する医師が多いと、需要と供給の関係から必然的に給与は下がります。これは当面続く流れかと思います。
また医療脱毛のライバルは同業者だけではありません。従来からあるエステ脱毛に加えて、近年はセルフ脱毛という施術形態もでてきました。これはお客様自身が、脱毛の機械を使って、自分で好きなようにレーザーを当てて、脱毛を行う形態です。家庭用脱毛器よりも高出力であり、一定の効果が期待できます。私もためしに使ってみたことがありますが、確かに四肢や腋窩など、比較的レーザーの効果が現れやすい部分には効果があります。ヒゲやVIOなど難易度が高い部分には、まだまだという印象を受け、全般的に見ると依然として医療レーザー脱毛が第一選択であると思いますが、この業界の機械はどんどんよくなっているので、油断できないと感じています。
健診
健診の仕事は当面安定してあることが予想されます。しかしこちらも給与という面では今後も厳しいと思われます。そもそも健診の仕事は初期研修を終えていれば、臨床にブランクがあるような場合でも対応できます。もともと外来などの仕事と比べると給与は低めでしたが、近年は医師募集の手段が増えたためか、給与が高くない仕事でも募集をかけると充足することが多いので、募集する側も初めから給与を上げないところが多いように思います。スポットの界隈をみていても、時給10000円以下でも埋まっていますし、たまに緊急募集で相場より高待遇なスポットがでると、一瞬で埋まってしまい、争奪戦のような状況になっています。
※コロナワクチン業務
コロナワクチン案件は、国からの強力な補助により、一時期ものすごい高待遇の案件が乱立しました。私もほとんど待機にもかかわらず、時給2万5千円を超えで、一日で20万円以上の給与の案件で働いたことがあります。(某超有名通販Aの倉庫での案件です。)この時期はバイト医の一人勝ちのような状態で、年間数千万円を稼いだドクターもいらっしゃったようです。さすがに真面目に地道な診療を行ってる医師から不公平という声も上がったようでした。それまでバイト医は低くみられるような傾向がありましたが、人生何があるかわからないものです。もちろん今後同様のことはもう無いかと思われますが、市場をチェックして、すぐに動けた先生は、この時期かなりの収益を出すことができました。先生によってはこの収益をインデックスファンドに投資すれば、一生逃げ切れる資産を築けたでしょう。市場動向のチェックとフットワークの軽さは、厳しい医療業界を生き抜くための強力な武器になります。
医師が高給に依存して、安定できる時代は終わった。
医療業界の縮小、日本経済の縮小、少子高齢化を考えると医師にとっても厳しい見通しは避けられず、どう考えても医師の収入の先細りの状況は避けられないと思われます。人生お金だけではありませんが、医師も生活する以上お金は必要です。これからはより一層お金の知識、資産運用の知識を持つことが医師には必要になると考えられます。
いろいろ厳しい状況ではありますが、それでもまだ医師の労働環境は他の業界に比べればマシな方です。日給10万円がもらえる職業は、特殊な世界を除き、合法的、一般的には医師くらいなものです。この状況がずっと続くとは思わず、気付いた先生から早めに、利確し、対策を取られることをおすすめします。
資産運用については専門家が多くいるので、詳細は他に譲りますが、先生方にとっても再現性が高いのは、優良なインデックスファンドに投資することが考えられます。(私はリベラルアーツ大学のYouTubeをよくみています)
具体的には、給与所得で早めに種銭を作って、優良なインデックスファンド(eMAXIS Slim 全世界株式など)に投資することです。もちろんNISAも使いましょう。
またご存知の先生も多く、多くの先生が一度は電話が来たと思いますが、同じ投資でもワンルームマンション投資などは避けましょう。お金を失う可能性が高いです。先生方は種銭を作るポテンシャルが高いので、大儲けしようとしなくても、普通にインデックス投資で、時間をかければ億単位の資産をつくることは比較的容易です。
若手の鋭敏な医師には、この状況に気づいて、早めに利確に走っている先生もいます。初期研修後に、自由診療、美容に自身の労働力を全振りして、生活費は抑えて、数年で一気に数千万円の種銭を作って投資に回し、短期間に資産を築いている先生です。実は私の研修医時代の同期に、これに似たかなり頭の良い先生がいました。今ではかなりの資産を持って、日本中を飛び回って生活しています。当時は初期研修の業務に必死で気がつきませんでしたが、いま考えると非常に先見性がある先生だったと尊敬しています。(真似できたかというと私には難しかったは思いますが。。。)