転職先は退職前に決めるべきか?

今回は退職の前に転職先を決めてから退職するか、それとも退職後にじっくりと転職先を決めるべきかというテーマです。一般的には転職先を確保した上で退職をされるケースが多いと思いますが、急な事情などで、転職先が決まらないまま退職せざると得ないケースもあると思います。また中には現在の職場が忙しすぎて、とても転職活動をするような余裕がなく、とりあえず退職を考えている先生もいらっしゃると思います。しかしながら、転職する場合は可能な限り次の職場を確保したほうが精神衛生的によいです。今回は転職先は退職前に決めるべきかというテーマで考えてみます。

所属を失うと、冷静な判断がしにくくなる

先生は社会的な居場所を一時的にでも失ったことがあるでしょうか?多くの先生が学生時代から途切れることなく社会的に何らかの所属する集団があったのではないでしょうか?仕事を辞めて、完全に無職の状態になると、言いようのない漠然とした不安につつまれます。すぐにでも次の所属先を決めて、落ち着きたいという欲求に抗うのは、非常に難しいです。これは言葉ではなかなか言い表せないものですが、少なくとも優良な職場を選り好みすることは、精神的にかなり難しいと思います。普段ならしない妥協や、冷静に考えれば避けるような就職先を選んでしまうリスクが高まります。

実は私は一時、完全に仕事から離れ、数ヶ月間無職の状態で転職活動をした経験があります。上記のことは私の体験談です。私は一時、仕事にかなり疲れてしまい、一旦仕事から離れて、今後のことをゆっくり考えようと思った時期がありました。前の職場はもちろん円満退職の形をとりましたが、その後の転職先のことは全く考えず、今後臨床を続けていけるかどうかも迷っているような時期でした。幸い独身で、しばらく生活できる貯蓄もありましたので、数ヶ月はゆっくり休もうと思っていました。しかし退職し、引っ越しをすませ、10日もすると、もういても立ってもいられない、ざわざわとした精神状態に悩むことになります。休む予定のつもりが、全く気が休まらず、気晴らしに外出しても気が晴れず、いいようのない不安に常に包まれている状態でした。私はその時、人生で初めて、学校や会社などの社会的な所属先を完全に失いました。

じっとしていられず、いくつかの求人会社に登録して、転職先を探し始めました。しかしその当初は転職の知識もなく、自分の客観的な市場価値も理解できていませんでした。たまたまでしょうか、自分が希望する条件や、優良な条件での仕事がまったく見つからない状態で、時間だけが過ぎていきました。1ヶ月、2ヶ月と無職の状態が続くと、もう冷静な判断ができなくなります。私はとにかくなんでもいいから常勤で働けるところを探して、とにかく転職してしまおう!という心境になっていました。当初の目的も完全に見失い、完全におかしい状態でした。

当然の結果ですが、転職した職場は長く続きませんでした。そもそも雇用契約と実務がかけ離れた病院で、いまになって冷静に考えれば、まず選ぶことがなかった病院でした。自分の甘さを悔いたものです。

そのような自分の実体験もあり、転職を相談された場合は、可能な限り転職先を確保してから、退職をするようにおすすめしています。もし少し休みたいのであれば、退職から再就職まで数ヶ月空けてもいいんです。例えば3月末退職にして、7月から転職先で仕事を始めることも可能です。転職先にあらかじめ入職時期を相談しておけば、全く問題ありません。実際そのようにして、普段はなかなか行けないような長期の海外旅行に行く先生もいます。転職先が決まっていれば、限られた時間を思う存分楽しむことができます。

「転職活動」は早めに始める

転職先を確保してから退職するためには、退職を予定している時期から、少なくとも半年は時間を取りたいです。早ければ早いほど、余裕をもって転職先を選ぶことができます。たとえば3月末で退職を予定している場合は、少なくとも前年の10月には動き始めたいです。可能なら前年の4月くらいから情報を集め始めると、余裕を持てると思います。

転職活動を実際に始めて頂くとおわかりになると思いますが、半年でも意外に時間的にあまり余裕はないです。スムーズに転職先が見つかればいいですが、条件にこだわりがある場合や、やや難易度が高い場合は半年では結構厳しいです。

転職で一番時間がかかるのは、先生が気に入る転職先を見つけることです。一番の理想は転職予定がない時期から、転職市場を定期的にチェックしておくことです。現在の先生の待遇が、市場と比べてどうかも把握できますし、気になる求人をストックしておけば、転職が必要になったときにすぐに動くことができます。

転職活動はノーリスク、転職活動をしないことがハイリスク

「転職活動」自体は全くのノーリスクです。転職市場を覗いてみたり、転職活動をしたからといって、転職しなければならないわけではありません。他の求人をみて、現在の状況が恵まれていることを認識して、今の仕事を続ける先生もいらっしゃいます。もし転職に至らなくても、今の職場で納得して働くことができるなら、その転職活動は意味があったと、私は思います。

逆に言えば、「転職活動」を全くしないほうがハイリスクとも言えます。先生の市場価値よりも低い待遇に気づかずに勤め続けてしまい、総額で生涯数千万円単位の機会損失をしているケースもあります。実はこのようなケースは結構多いです。転職すれば仕事の内容は変わらずに、数百万円年収が上がることは普通です。少し工夫すれば、もっと上げることもできます。10年、20年のスパンで考えると、総額億単位の損失になることもあります。恐ろしいことです。

私の友人医師は、昼夜問わず働いて、休みもロクにないような医療機関で働いていても、年収としての評価は極めて低い先生もいらっしゃいました。この先生は転職すれば年収を文字通り倍にできるような状態でした。非常にもったいないことだと思います。特に転職未経験の先生は、気づかないうちに、得られたはずの多くのお金を失い、まるで搾取されるような働き方になっているケースも珍しくないです。どうか早く気付いてください。

転職先が決まらないで退職する場合

退職前に転職先を確保するほうがよいとは言っても、急な事情で転職先が決まらないままに退職せざるを得ないケースもあると思います。そのような場合は、すぐに転職活動を始めると同時に、スポットでのアルバイトをすぐに開始することをオススメします。業務はなんでもいいです。健診でも外来でも美容でも。とにかく何でもいいので、仕事を続けることで、正常なメンタルを保ちやすくなります。この機会にやったことがない業務に挑戦するのも良いです。

仕事がない状態で、転職活動をするのはメンタル面でかなりきついです。かなり蓄えがある先生でも、収入がなくなり、貯金を切り崩すようになると、言いようのない不安感に苛まれます。時間がたてばたつほど、正常な判断が難しくなります。

スポット業務は基本的に初めての医療機関で勤務するので、カルテの使い方などその都度覚えなければならず、面倒な部分もありますが、基本的に現地スタッフがバックアップしてくれます。それにスポットではそこまでの能力は求められません。スポットでできる範囲の業務になるので、ある意味気楽な面もあります。

私は仕事が仕事が切り替わるタイミングで、ぽっかり2ヶ月間空いてしまった時期がありましたが、スポット勤務を連続で入れて乗り切った時期があります。直近に非常勤の仕事を紹介してくれた転職エージェントに相談したところ、たまたま急に長期休みになった先生の代診を探している状況だったので、一気に仕事を紹介してもらえました。その2ヶ月は常勤のように週4で同じ医療機関で仕事をしていました。同じ仕事なのでやや飽きましたが。スポットでも転職エージェントに相談すると、限られた期間、集中的にできる仕事を紹介してもらえることもあります。

内定が得られない場合も焦らずに

一番注意が必要なのは、内定が得られなかった場合でも、決して焦らず、安易な妥協はしないことです。先生が良いと思う求人を見つけて、面接に行っても、上手くいかないケースもあります。正直あてにしていた求人に断られると結構メンタルが削られます。それはやむを得ないと思います。私も自分の中でほぼ決めていたような求人で、問い合わせの段階では上手くいきそうだったものの、最終的に先方から断られた経験があります。仕方のないことだと分かってはいましたが、結構落ち込みました。

しかしそこで大切なことは、決して妥協しないことです。面接で落ちると、次に行くときにどうしても本来の希望を妥協して、いつの間にか内定を得ることが目的となってしまい、自分を安売りしてしまいがちです。本来であればもっといい転職ができたにもかかわらず、先生が希望しない、待遇が今ひとつの求人で妥協してしまうことは絶対に避けたいです。

思うように行かない時期も、仕事や時間があるとないとでは、全く気持ちが違います。いま現在仕事があり、転職時期まで時間があれば、多少落ち込んでもすぐ次に切り替えることができます。しかし仕事も時間もなく、精神的にも時間的にも追い詰められている状況では、やはり結構きついと思います。もし在職中で可能なら、退職時期をずらしたり、または非常勤の仕事を一時的に確保した上で、生活を立て直した上で転職活動に取り組むことも検討してください。

繰り返しになりますが、焦って、本当は行きたくもない求人に妥協してしまうことだけは避けてください。医者の転職は、もちろん昔よりは厳しくなった面もあるものの、まだまだ売り手市場で先生が条件を選べる立場です。ひとつ、ふたつから断られたところで全く問題なしです。求人はたくさんあります。先生にとって良い転職先がきっと見つかるはずです。転職が思うように行かない時期は、どうかこの記事を思い出していただければ、私としては嬉しいです。

補助解説動画

https://youtu.be/Yd53Be9A5RI