スキルがない場合の再研修は可能か?

先生の中には、何らかの理由で初期研修終了後に、臨床経験を積む機会を逸してしまった先生もいらっしゃると思います。研究や留学など他のお仕事をしていたり、ご家族の事情や、体調不良、ライフイベントなど様々な要因があるかと思いますが、このような先生が臨床の現場に復帰したいとお考えの場合について考えていきます。

初期研修後に一般臨床から離れる先生は一定数みえる

多くの先生は初期研修後に、後期研修に進まれるケースが多いですが、そのような道を歩まれない先生も一定数存在します。初期研修で疲れ果ててしまったり、病気やご家族の事情、ライフイベント等で働きたくても、働くことができなかったり、健診や自由診療で問診のみのお仕事に振り切った場合など、様々なケースがあると思います。そのような先生が一般的な臨床に復帰しようとお考えの場合、現状ではなかなか難しいケースもあると思います。再研修の制度というものが、ほとんど存在しないからです。

しかしながらこのようなケースでも、臨床に復帰したい先生を支援したり、研修をさせてくれる病院も実は中には存在します。数は多くないですし、公に募集をしていないところも多いですが、事情を相談すると、研修に近い形で、勉強させてもらいながら、働くことができる職場も存在します。

傾向としては、転科の先生を受け入れている病院や、地方の小規模な病院に、このようなケースで対応可能な病院があります。先生によっても状況が異なると思いますので、ほとんどは個別での相談となると思います。このような医療機関を先生が自力で探すのは結構難しいかもしれません。ホームページなどで復帰支援を打ち出しているところもありますが、数は多くはありません。自力でネット検索をできる限り探してみて、なかなかよいところがみつからなくても諦めないでいただきたいです。もしかすると先生の希望の地域ではないかもしれませんが、臨床への復帰支援をしてくれる医療機関は全国規模に視野を広げれば見つかる可能性は十分あります。ただ数が多くないのと、タイミングの問題があり、そこが悩ましいポイントです。

自力で探すことには限界もあるかと思いますので、可能ならこのようなケースに対応したことがある、転職エージェントさんに紹介してもらうのがオススメです。今回のように難しいケースでは、エージェントさんが重要になります。また数が多くないので、できるだけアンテナを張る必要があり、いくつかの会社に打診して、併行して探してもらうのが良いと思います。

医師が働けないのは社会的にももったいない

かなりの努力をして医師免許を取得した先生が、様々な事情で、働きたいにもかかわらず臨床の現場に復帰できないのは、社会的にも大きな損失です。あまり公の場で語られることは少ないですが、医師免許があり、働く意欲もある先生が復帰できないケースというのは、実は少なくないのではないかと思います。本来はもっと復帰支援や再研修が制度化され、一般的になればいいと思うのですが、現状では初期研修後にある程度の臨床経験が積めないと、その後の復帰がかなり難しくなってしまうというのが現実です。また家庭の事情等で長期間のブランクができてしまった場合も、復帰が容易でないのが現状です。
社会的には医師不足が問題となっていますが、私としては医師数を増やすよりも、こちらの対策を取るほうが有効性が高いように思います。

ジェネラリストに転科というのも一つの選択肢

たとえば後期研修の途中で研修を中断し、ブランクがあって復帰しようとする場合、診療科によっては元の科に戻ることが難しいケースもあると思います。その場合は思い切って転科してしまうというのも手です。転科の場合は総合診療が一つの選択肢になると思います。専門医を目指す場合も3年間の研修で受験資格が得られますし、元の診療科の知識も活かせる可能性が高いです。また転職という面では、ジェネラリストは求人数が多く、有利に働きます。今後も活躍の場は多いと思います。

またジェネラリストは、一度臨床のスキルを確立させれば、その後長くその知識が使える可能性が高いです。スペシャリストの第一線を走る先生の場合は、数年で治療方法や診断技術がアップデートされるため、数年のブランクでも復帰することが大変です。ジェネラリストの場合は、数年空いてしまっても、多少アップデートすれば、すぐについて行ける可能性が高いです。ライフイベントなどで、再度臨床から離れることになっても、一度ジェネラリストとして、知識とスキルを固めておけば現場復帰もスムーズになります。ジェネラリストはスペシャリストよりも人気がないように思われますが、実は隠れたメリットや、柔軟性の高さがあります。もちろんスペシャリストの先生が、ジェネラリストのスキルを持てば、ほぼ無敵です。適切な戦略をとれば、生涯にわたって高待遇の環境で働けると思われます。

知人医師の例

私の知り合いの先生で、初期研修直後に自由診療の仕事をした後、思うところがあって内科に転科された先生がいらっしゃいました。一般的な後期研修はせずに、いわゆる問診のみの仕事を数年されていましたが、保険診療に復帰したいと一念発起されました。詳細は聞けなかったのですが、今後、医師としてのスキルを確立させなければならないという危機感を覚えたのかもしれません。問診のみのお仕事で、たとえば10年後にその仕事を失ってしまった場合、医師として働くことができる求人はかなり限られてしまうと思います。その間に資産形成をして逃げ切ってしまえば、金銭的には大丈夫ですが、稼いだお金を遣ってしまっていたら結構厳しい状況です。またお金はあっても、医師として何か割り切れないものが残るのかもしれません。

転科直後は、以前の仕事とだいぶギャップがあり、最初はやはり苦労されたと思います。しかも自由診療に比べれば保険診療では給与も半減してしまうのですから、モチベーションを保つのも大変だったと思います。仕事がきつくなるのに、給与も下がってしまうのは、精神的にかなりキツイと思います。それでも1年もすると、同期とほぼ遜色なく仕事をされていました。後に職場が分かれてしまったので、その後のことはわからないのですが、かならず保険診療での経験が財産になっていると思います。

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