
先生はお仕事のときは、多かれ少なかれ、医師としての役割を演じている部分はあると思います。特に非常勤の業務を掛け持っていて、ジャンルが異なる場合は、職場によって求められる人物像も異なり、ある程度の演じ分けが必要かと思います。多くの先生は無意識で行われているかと思いますが、今回はお仕事によって、どのように対応を変えていくかについて掘り下げて考えてみようと思います。
仕事内容や場面によって、求められる人物像は異なる
たとえばすごく忙しい外来の現場で、半日で50人を超えるような現場の場合、テンポ良く患者さんを診察して、カルテ記載も要領良く、ポイントを絞って行っていく必要があります。一人にかけられる時間は3分くらい、長い方でも5分でしょう。たとえばこのような現場で、じっくり30分かけて、話を聞いていては、外来がパンクして困ったことになります。雇用主としても先生にお声がけをせざるを得ないでしょう。
逆に訪問診療の業務で、半日に5件ほどの対応でよく、丁寧な診察を売りにしているような現場の場合では、診察を数分で切り上げてしまうと、患者さんにはせわしない印象を与えてしまいます。もっと時間をかけて、丁寧に話を聞いて、診察をすることが求められると思います。
これらは極端な例でありますが、医師も労働者として働く以上は、金銭的な対価として、雇用主が求めているスキルを提供し、求められている人物像をある程度演じる必要があります。
現場別でどのような人物像が理想かを考える。
①忙しい外来業務の場合
半日で50人を超えるような極端に忙しい現場や、そこまでいかなくても、一時間で10人以上を診察しなければ回らないような医療機関はわりと存在します。そのような現場では、やはりテンポをよく、説明も要点を絞って行う必要があります。そこまで忙しい場合は、カルテ記載は、シュライバーさんがいて、先生が発言したことをどんどん記録し、ほとんど代行してくれる場合もあります。しかし自力で行う必要がある場合は、ある程度カルテ記載もセットに組んでおいて、あらかじめ用意した通りに説明して、診療をテンプレート化するなどの、時短テクニックも必要でしょう。
このような現場で時間をかけてじっく説明をしていると、戦力外通告になる可能性が高いです。病態によっては、診察できる患者さんに制限があると思われ、複雑な場合は他院に紹介をせざるを得ないケースもあると思います。
忙しい現場の場合は、検査などは代行してもらえるので、他のスタッフさんと上手に連携する必要があります。指示を的確に、分かりやすく伝えるスキルも必要になります。
このような忙しい現場に、ゆっくり目の勤務が理想の先生が行ってしまうと、かなり悲惨なことになります。話を事前に聞いていればまず選ばないと思いますが、ミスマッチになる可能性が極めて高いです。
外来勤務の場合、半日の単位で、どのくらいの人数を診察する必要があるかは、求人票に記載がある場合もありますし、書いて無くてもエージェントさん経由で質問すれば教えてくれます。比較的余裕がある現場では、3時間の外来診療時間で20人前後でしょうか。その場合は、だいたい一人10分弱はかけられます。これであれば、そこまでタイトということはないと思います。しかし多いところでは、倍以上の人数を対応しなければならないケースもあり、一人5分もかけられない現場はかなり忙しいと感じます。カルテの事前把握や、記載も含めると、患者さんの話を聞いたり、診察をする実務時間には3分もかけられません。
※忙しさと給与は必ずしも相関しない
またこれは余談ですが、忙しい現場だからといって給与が高いとは限りません。逆に比較的ヒマであっても給与が低いとも限りません。そこが転職で難しいところでもあります。
傾向として主要駅の駅チカクリニックや、人口密集地などは、患者さんが多いわりに給与は普通であるように思います。人が多いところには、医師も多くいるので、そこまで待遇を良くしなくても、応募があるのでしょう。
逆に少し不便な場所や、応募が少ないと思われる求人(平日の午後のみなど)は、仕事があまり忙しくない割に、給与が平均よりも良かったりします。仕事内容と給与にギャップがあることは、全然珍しいことではなく、結構見落としがちなポイントです。(参考記事→仕事の難易度と給与は必ずしも相関しない)
②ゆったり目の外来、件数に余裕がある訪問診療の業務の場合
ゆったり目の勤務の場合は、患者さんをどんどんテンポ良く診察するよりも、一人ひとり丁寧に向き合う姿勢が求められることが多いです。時間をかけて、ゆっくり患者さんに向き合うことが得意な先生に向いています。特に訪問診療では患者さんの雑談を長めに聞いたり、話し相手になることも必要になります。これは先生の好みにもよると思うので、多くの仕事を効率よくこなす環境が好きな先生には、逆に負担になる仕事かもしれません。意外ですが、暇な仕事環境がストレスになる先生も一定数存在します。そのような先生はヒマな仕事を選んでしまうと、想像以上にストレスになり得るので注意です。単純なことですが、先生の性格や適性にマッチした仕事を選ぶことが、転職成功のコツです。
③自由診療の現場の場合
自由診療の現場は、特に美容では、身なりを整えることが求められます。白衣は新しいものをその都度用意してくれることが多いので、特に問題ありませんが、基本的には男性医師ではアイロンをかけた清潔なシャツにネクタイという格好が無難と思います。また爪を切りそろえたり、マスクをしない場合はヒゲを整えたりなども必要になります。靴も汚れていると意外に目立つので注意です。髪型も清潔感があるものが求められます。診療と同等かそれ以上に、身なりに気を遣うのが、自由診療の職場の特徴です。
自由診療での問診や診察ですが、時間的にはかなり余裕がある現場も少なくありません。しかしながら、ダラダラ時間をかけるのはNGです。今はタイムパフォーマンスが重視される時代です。自由診療を求めてみえるお客様は、金銭的に余裕がある方が多いものの、時間にはシビアな方が多いです。極力余計なことは言わず、簡潔に分かりやすく説明することが重要だと思います。中にはゆっくり話を聞きたい方もたまに見えますので、そのような方には時間を長めに取っていただいて、もちろん良いかと思います。
来られたお客様が何を求めているかを、瞬時に見極めるスキルが必要になります。そう考えると自由診療は見た目よりシビアな現場かもしれません。
実例を少し
私が転職活動中に話を聞きに行った実例をご紹介します。その医療機関はとある主要駅の駅チカクリニックでした。患者は一日で100人以上対応することもあるそうで、見学に行ったときもかなり忙しそうでした。その医療機関では、やはりテンポ良く多くの患者さんを診察できる医師を求めているとのことでした。以前勤めた先生で、テンポの速さについていけず辞められた先生もいたそうです。他の先生の手前もあるので、診察できる患者数が少ない場合は、給与を調整したり、継続して雇えない可能性もあると言われました。私には正直向かないと思ったため、見学だけで終わりになりました。
もちろんおかしなことには加担しない方はがいい
求められる医師としてのスキルを提供することは大切ですが、もちろん法的に微妙な業務には加担しないほうがいいです。私が実際に直面したのは、職員に対しての処方でした。対面もなしで、メモを渡されて、そのメモのとおりに薬だけ処方して欲しいという内容の業務依頼でした。カルテも病名だけ記載すればいいという謎のローカルルールでした。その医療機関は、職員への診療が福利厚生で自己負担分も無料だったので、処方を希望するスタッフも結構いて、なあなあになっていく内に、そのような形式になってしまったのだと思います。特に適応外の抗生剤処方の希望や、強めの眠剤の依頼などもあり、困ってしまいました。これらは法的にはNGで、もし査察が入ればアウトでしょう。このようなケースでは、なにかあれば先生にも迷惑がかかる可能性があるので、理由をつけてやんわりとお断りすることをおすすめします。
あまり無理することは禁物
必要とされる役割を演じると言っても、あまりに無理なことに対応をするのは、先生を追い詰めてしまうだけなので、避けたほうがいいです。たとえばオンコールが負担になるにもかかわらず、いつでも気持ちよく対応してくれる先生もいらっしゃいます。しかし過度に負担になる業務を続けることは現実的ではありません。先生の心身の体調を崩すリスクが大きいです。先生の働き方は、労働という範囲を超えて、雇用主に搾取されている状態に近い可能性があります。もし今の業務が過剰に負担になっているのであれば、転職を真剣に考える時期であると思います。