転職に伴って、あえて常勤ではなく非常機を掛け持つ先生もいらしゃいます。医師の働き方も一昔前に比べると随分多様になってきており、週5にこだわらず業務を減らして、リソースを家庭やご自身の趣味、他の事業に割く先生も少なくありません。
今回は最近のトレンドである、非常勤を掛け持ちについて考えていきます。

常勤でなく、非常勤をかけもつメリット、デメリット。

メリット

収入は増える可能性が高い

常勤で働く場合と比べて、非常勤をいくつか掛け持った場合、収入アップが期待できます。常勤で一般内科で病院勤めの場合、中堅の先生で大体相場は1500万円ほどです。しかし非常勤の場合は一般内科の外来で一日8万円ほどの求人もあります。仮に一日8万円の非常勤を掛け持って週5日勤務した場合、日給8万円×週5日×4週間で、月収は160万円になります。年収換算では、1920万円です。一般内科でほぼ同じ業務をしていても、勤務先を複数に分散することで収入アップできる可能性も十分にあります。

また訪問診療や、自由診療など単価が高い勤務を織り交ぜると、収入アップは更に加速します。訪問診療や自由診療では日給が10万円を超えるところも少なくありません。仮に日給が10万で週5日で働いた例では、単純計算で年収は2400万円にまで上がります。これらを組み合わせることは結構オススメです。普段保険診療の先生も週1で自由診療を入れるといい気分転換にもなります。

働き方の自由が利きやすい

常勤ではご自身のライフスタイルに併せて、勤務を減らしたり、休んだりというのはなかなか難しい場合も多いです。特に病棟を持っている先生は長期の海外旅行などは難しいでしょう。非常勤であればオンコールも無いことが普通なので、事前に計画すれば長期の休みも現実的です。また体力や家庭の状況に合わせて勤務を週3日に減らすことなども可能です。もちろん収入はその分減ってしまいますが、QOLやご自身の生活を重視される先生には、自由が利きやすいということは非常にメリットです。

厚生年金に入らないでOK。

これは後で解説する、社会保険料に関連する話です。常勤から離れた場合、社会保険料はご自身で管理することになります。常勤である間は、医療保険は健康保険、年金は厚生年金に自動的に加入し、手続きも代行してくれています。しかし常勤から離れたあとは、医療保険は国民健康保険、厚生年金は国民年金に変わります。これらの変更手続きはご自身で行う必要があります。

常勤    非常勤
健康保険国民健康保険
厚生年金国民年金
常勤、非常勤の社会保険比較

社会保険料は先生のように給与所得が高いとかなり高額になります。年間の負担は数百万円単位になることも普通です。非常勤になるとご自身で手続きを行う必要があるものの、厚生年金は加入から外れます。厚生年金は高額である割に、払い損になってしまう可能性が高いと言われています。常勤である内は強制加入となっていますが、厚生年金から外れるのは一つのメリットと言えるでしょう。

リスクヘッジになる

医療の環境は厳しくなる傾向で、今後ますます保険診療は厳しくなると予想されます。医療機関が経営破綻することも珍しいことではありません。複数の医療機関に勤務を分散させておくことは、先生にとってリスクヘッジになります。たとえ一つの医療機関の経営がうまく行かなくなっても、先生の収入がゼロになることがありません。非常勤であれば常勤よりも募集先も多く、入職も容易なため、すぐに切り替えることが可能です。今後一つの医療機関に労働力を依存することは危険とのことで、労働力を分散するのが普通になる時代が来るかもしれません。

デメリット

常勤よりも不安定

当然ですが、常勤の方が安定性は高く、非常勤の方が不安定です。常勤の医師はよっぽどのことが無い限り解雇されることはありません。しかし非常勤の場合は、契約更新のタイミングで切られるリスクは常にあります。非常勤でも5年以上勤めると常勤と同様に労働者として保護される権利が強くなりますが、やはり常勤にはかないません。

社会的信用としても常勤の方が上です。住宅ローンを組む予定がある先生は常勤の内に行った方が審査には通りやすいでしょう。クレジットカードもハイランクのものについては同様です。

また急病で休職したり、入院した場合は、常勤であればかなり手厚い保証が期待できます。しかし非常勤の場合は保証はありません。ご自身で民間保険をかけるなどの対策を取る必要があります。

ある意味常勤は、安定や安心という保険をかけている分、非常勤よりも給与が低いという考え方もできます。

老後の問題

非常勤の場合は、働ける内は働いただけ収入が期待できますが、体力的に厳しくなった場合など、勤務を減らすと当然その分収入は減ります。また医療機関によっては年齢的な理由で勤務を断られるリスクも出てきます。その反面、常勤で長く勤めた病院がある先生は、定年後も関係を続けて、関連の老健での勤務や療養病床の管理など、比較的体力的に負担が少ない仕事を紹介してもらえるケースも少なくありません。もちろんその医療機関にもよりますが、定年後も長く働きたい場合などは、常勤先で信用を貯めておくことが有利に働くケースもあります。

しかし非常勤を選択される先生は、その時点でお金のことをしっかり考えている先生も多いので、高収入の間に投資や貯蓄にしっかり回すことができれば、その辺りのことはクリアできるでしょう。要するに老後の問題とは、お金の問題だからです。

社会保険の管理

メリットの項目でも触れた、社会保険に関することです。社会保険料をご自身で管理して支払う必要があります。厚生年金は払わなくてよくなるものの、最初はこれらの切り替え手続きをして、今後はご自身で支払いを管理することになります。

また国民健康保険に関しては先生の年収ではマックスになる可能性がかなり高いです。こちらの負担も少なくありません。いままでは天引きされていたので痛税感は薄かったと思いますが、今後はご自身で収入の一部を蓄えておいて支払う必要があります。

また退職後2年間は、健康保険の任意継続を使用できますので、使った方がよいです。退職時に事務さんが手続きについて説明してくれますので忘れないようにして下さい。

非常勤になるデメリットは総括すると、お金の管理、税金・社会保険料の管理、信用力の問題と言えます。

非常勤の単価が下がる可能性

現在は常勤よりも非常勤の方が収入はよい状況ですが、今後どうなるかは分かりません。雇用する側の立場で考えると常勤よりも非常勤の先生の方が、多少多く給与を払ってでも使いやすいのは事実でしょう。常勤の先生を雇うと、雇用した医療機関も社会保険料の支払いがありますし、何よりよっぽどのことが無い限り解雇が出来ないからです。能力的や人格的に問題のある医師を雇ってしまったことで苦労している医療機関の話は珍しくありません。おそらく先生の周りにもいるでしょう。普段お勤めの先生が実感することは少ないですが、実は常勤の労働者はものすごく強い権利で守られています。事実上先生が辞めると言わない限り、医療機関が先生を退職させることは難しいのです。

そう考えるとすぐに今の状況がひっくり返るとは思われず、非常勤の給与が下がった場合は、常勤の給与も相応にさがると思われますが、リスクはゼロではないということです。

マイクロ法人の活用で社会保険料の削減

社会保険料について追加の知識です。医療以外に例えば執筆や講演、コンサルティング業務などの仕事をしている先生は、プライベートカンパニーを作って社会保険料を削減する方法もあります。万人向けの知識ですし、手間もかかりますが、上手くハマると一気に手取りを増やすことができる可能性があります。マイクロ法人といわれる法人活用については、こちらのサイトが最も分かりやすと思われますので、リンクを張っておきます。(→参考記事

今後、常勤が第一選択でなくなる可能性はある

今までは医師の勤務と言えば常勤が圧倒的に多い状況でした。非常勤は一部子育て中の先生など例外的な勤務形態でしたが、最近は、非常勤のメリットに気づいた先生があえて非常勤を掛け持ってカスタマイズするケースも増えてきています。実際周りの友人医師にもおります。

今後、医師の増加は間違いなく、QOL重視の考えなど価値観も多様になってきています。医師のワークシェアリングが進めば、常勤が第一選択でなくなる未来もあるかもしれません。

しかし現状はやはり多くの先生からみれば少数派です。リスクもあります。しかしその分メリットも十分あります。一般的にマイナーで少数派の物事にこそ、制度や待遇の歪みや抜け道が残っているもので、これがある内にメリットを十分享受するという方法もあります。この歪を上手く利用して、若い内に稼ぎきってしまおうというクレバーな医師もいます。

変化が激しい時代の現在では、常勤や古い制度に固執することがリスクになってしまう可能性もあります。なんだかんだ医師は若い先生も含めて保守的な考えの先生が多いです。知らぬ間にゆでガエルになってしまうリスクもあります。同じように働く場合も、何も考えずに選ぶのではなく、理由を持って働き方を選ぶのではだいぶ違います。アンテナを張っていれば変化も素早く察知して、対応が可能です。
そのように考えると今の時代の医師は、どのような先生もある程度転職市場をみておく価値があると思います。転職市場みれば、場合によっては今の環境に納得して勤務を続けることもできますし、反対に転職に踏み切ることもできます。いますぐどうこう、という先生でなくても是非転職市場を覗いてみてください。それが先生の将来的なリスクヘッジになるからです。

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