
シリーズ 医師転職の最適解
医師転職は先生によって、状況、希望条件が異なるため、最適解は先生それぞれで異なります。それを承知の上で、当サイトでは、経済面、QOLを最大化する方針で、医師転職の最適解を考えてみようと思います。先生が転職する際の、ひとつの参考としてご覧いただければ幸いです。
今回は非常勤勤務の応用編をお送りします。
非常勤勤務の最適解 応用編
=マイクロ法人の組み合わせ
非常勤のデメリットのひとつは、社会保険料の負担が大きいこと
非常勤勤務は、その給与の高さ、自由さ、リスクコントロールが魅力です。しかしその一方で、先生方は国民健康保険を上限MAXで納付する必要があり、国民年金も納付が必要です。特に配偶者がいる先生は、配偶者の就労状況によっては、2人分の国民年金を負担する必要があり、毎月かなりの負担になります。非常勤で勤務し始めた先生は、ご自身で社会保険料を管理するようになって始めて、社会保険「税」の負担の大きさに気付かれる先生もいらっしゃいます。
解決方法は法人を立ち上げる!
医師の間ではあまり知られていませんし、実践している医師となると、かなり稀ですが、実は解決方法が存在します。それはご自身の会社を立ち上げて、ひとり社長になり、常勤で勤める時と同様に、健康保険+厚生年金に加入することです。俗に言うマイクロ法人スキームと呼ばれるものです。これは実は医師とかなり相性が良い方法です。
マイクロ法人については、こちらのリベ大のYou Tubeがもっともわかりやすく解説されています。(参考→https://www.youtube.com/watch?v=zmulq35s1K0)
以下ではざっくりと要点を解説してみます。
マイクロ法人の給与を最小限にすることで、社会保険料を圧縮できる
先生が会社を作り、その会社から先生に給与を支払うことで、先生は、従来の保険から以下に変わります。
国民健康保険+国民年金
↓
健康保険+厚生年金
法人をつくることで、仮想的に常勤となり、健康保険+厚生年金に加入できるのです。そしてこれらの金額は、法人からの給与に連動します。そのため法人からの給与を健康保険+厚生年金が支払える程度で最小限にすることで、最低額の負担にすることが可能です。
マイクロ法人があると、他でどんなに高額な給与をもらっても、社会保険料は上がらない
一般的に非常勤で高額な給与をもらうと、その分、社会保険料も増えてしまいますが、一旦、上記の方法を取ると、他でどんなに高額な給与をもらっても、社会保険料については上がりません。これはそういうシステムなので、そういうものと思うしかないですが、非常に大きなメリットです。
高額療養費制度も、負担額がへるので、簡易的な医療保険代わりになる。
社会保険料を抑えることで、実は高額療養費制度でもメリットがあります。高額療養費制度は一定以上の負担を軽減する制度ですが、これも所得に連動して、金額が定められています。しかしこちらも不思議なことに、トータルの所得ではなく、社会保険料を支払う際に基準となる、標準報酬月額が基準になっています。
参考までに協会けんぽのホームページから引用した表でみてみると、標準報酬月額を最小限に抑えたケースでは、月の上限額は57,600円になります。先進医療や差額ベット代などはこちらの適応外になりますが、保険診療ならば例え、何百万円かかったとしても、月額の上限は57,600円に抑えられるのです。こちらは国民健康保険で、最高額を納めている場合と比べると、だいぶ負担が軽減されます。簡易的な医療保険代わりにとしても有効です。
デメリット
法人を立ち上げる手間、管理する手間とコスト
最大のデメリットは法人を立ち上げる面倒さ、維持する面倒さ、維持コストがかかることです。法人の決算は自力でやるのがかなり大変で、依頼する場合も、決算だけでも一定のコストがかかります。また赤字であっても、法人の維持費で年間約7万円ほどはコストがかかります。
診療以外の収入を確保する必要
先生が法人を立ち上げて、もっとも頭を悩ませることが、診療以外の収入を確保することだと思います。診療以外であれば、ブログでもユーチューブでも執筆活動でもコンサルティングでもなんでも構いません。
注意が必要なのが、アルバイトの給与を法人に振り込んでもらうのはNGということです。給与所得を事業所得に振り替えることはできません。また産業医の業務を行って、それを法人に振り込ませるのもダメということです。医師免許を使って、診療行為をすることは、ほとんど給与所得とみなされるため、法人の所得にすることは避けなくてはなりません。
診療以外でお金を稼ぐことがいかに難しいか。。。法人を立ち上げた先生が一番苦労することと思います。このサイトも私のマイクロ法人収入のひとつですが、現実はなかなか大変です(^_^;)。
手間とコストに見合わない可能性もある
いままで見てきた通り、マイクロ法人スキームはたしかに社会保険料を削減するという観点では有効ですが、かなりの手間がかかります。また支払った社会保険料については、確定申告時に所得控除を受けられることもあり、先生の時給を考えるとコストパフォーマンスが合わない可能性がかなり高いです。こんな周りくどいことをするくらいなら、おとなしく社会保険料は払って、より条件のよいところへ転職したり、スポットバイトを暇な日に入れたほうがいいでしょう。診療以外のビジネスをお持ちの先生や、税制面などお金に詳しいマニア向けの方法と言えます。
この方法をとる医師が少ないのは、知らない先生が多いということもありますが、コストパフォーマンスが合わず、知っていても実行しない先生が多いということでしょう。
今後規制させる可能性がある
またマイクロ法人スキームは不公平であるという声も一部から上がっており、今後規制させる可能性はあります。規制されてしまった場合は、先生が法人を運営するメリットはよっぽど成功している場合を除いて、ほぼないでしょう。社会情勢に左右される方法でもあります。
しかしマイクロ法人に挑戦することは、意味があると思われる。
しかしながら敢えてこのようなマニアックな方法もご紹介したのは訳があります。それは診療以外のビジネスを持っておくことは、後々、先生にとってよい影響がある可能性があるためです。ご存知のように、医療業界は今後さらに厳しくなっていくことが予想されます。人口が減っていく一方で、医師の数は増えており、パイの奪い合いが発生し、今後は医師の給与は厳しくなっていくと想定されます。そんな中で少しでも診療以外のビジネスを持っておくことはよいリスクヘッジになります。事実、新型コロナウイルスの影響で医業収入が減った先生も多くいらっしゃいますが、執筆など、他の仕事を持っていた先生は大きく収入には影響しなかったそうです。
また他のビジネスを行う際も、医師免許を持っていることはかなり有利に働きます。一般的に副業を行うよりも、副業の敷居は低めで、ビジネスを行う医師が少ない現在ではまだまだチャンスがあります。
まとめ
今回の方法はかなりマニア向けの方法です。多くの先生は実際に行うことはないでしょう。今回のテーマとしては、社会保険料云々よりも、収入を医業だけに依存せず、他の仕事を持ち、リスクヘッジを行うことの大切さだったかもしれませんね。