常勤医師の目に見えないメリット

勤務医の先生は、常勤の先生がまだまだ多いと思います。現在は非常勤をかけ合わせて勤務されているような先生も、常勤の経験がない先生はいないでしょう。常勤の勤務医は、診療以外の業務や、色々なしがらみがあったり、他の医師に気を遣ったりと面倒なことも少なくないと思います。私にも経験があるので、気持ちはよく分かるつもりです。しかしいざ常勤を離れてみると、常勤であったときに、いかに自分が守られていたかを知りました。常勤医師は労働者として、様々な面から手厚く保護されています。今回は常勤医師のメリットについて、考えていきます。

離れて分かる常勤勤務医のありがたさ

常勤の勤務医であるときは、年々診療以外の仕事が増えてきて、会議が増え、後輩の教育業務が増え、病院の認定のために休日も講習会に駆り出されるなど、煩わしく感じることも少なくありませんでした。有給休暇や夏季休暇ひとつ取るにも、他の医師との関係を多少は気にします。比較的自由な環境で仕事をさせて頂いていた方ではありましたが、それでも思うところはありました。いつの間にか会議の責任者になっていたこともあります。そんな時、週に一度他の病院から応援に来てくれる先生をみて、その自由なスタイルを羨ましく感じることもありました。

しかしいざ常勤を離れてみると、自分がいままでいかに社会的に守られていたか、労働者として保護されていたかを知りました。常勤先を退職するとまず保険証と年金を切り替える手続きをしなければなりませんが、これらをすべて自分で手続きをしなければなりません。いままでは病院の総務課がすべて代行してくれていたことも、これからは自分自身の責任で行う必要があります。その時初めて、なんとなく自分の後ろ盾を失い、一人になったような、これからは自力で生きていかなければならないという気分になりました。なんだかんだ、実務的にも精神的にも病院に頼っている部分も多かったのです。

社会保険料の管理を自分で行う必要がある

常勤を離れると、まず行う手続きは社会保険料についてです。健康保険は、国民健康保険になり、厚生年金は国民年金になります。シームレスに別の常勤に転職する場合を除いて、しばらく仕事を休む場合や、非常勤で勤務をする間は、こちらの保険料を納付する必要があります。

社会保険料ですが、今までは給与から天引きされるので、納税する感覚が薄かったのですが、自分で納めるようになると、かなりの金額に圧倒されます。正直痛いと感じる金額です。非常勤の場合は、所得税、住民税の確保はもちろんですが、社会保険料についてもご自身で差し引いて確保しておく必要があります。

また健康保険については、条件を満たせば国民健康保険ではなく、健康保険の任意継続を使用することも可能です。どちらの方が負担が少なくなるかは個々のケースによると思いますので、負担が少なくなる方を選択いただければと思いますが、非常勤でガッツリ稼ぐ予定の先生などは、任意継続の方がしばらく保険料を抑えられるかもしれません。逆にしばらく仕事を休む予定の方は、配偶者の扶養に入るという手もあります。

注意が必要なのは、任意継続を希望の場合は、退職日の翌日から20日以内に手続きを行う必要があることです。期限をすぎるとアウトです。これは本当にシビアなので、任意継続の希望がある場合は、退職直後に手続きをされることをオススメします。

病気になっても保障はなくなる

常勤のうちは、たとえば病気や怪我で仕事が出来なくなった場合、傷病手当によりある程度の給与保証がされます。もちろんこんな制度は使わないに越したことはありませんが、いざというときに保障があるのは精神的に結構大きいです。また休職中も職歴が途切れることもありません。常勤であれば、復帰の支援の相談や、復帰後の配慮なども一定期待できます。なんだかんだで常勤の場合は労働者として医療機関が守ってくれるという側面はあると思います。

しかし非常勤になると、働いた分だけの給与なので、働けなくなったらある意味そこで終わってしまいます。これは結構怖いことです。非常勤先も、働けなくなれば容赦なくリリースです。常勤と違い、軽減業務などの相談は難しいです。これは非常勤の宿命とはいえ、残酷な現実であると思います。

辞めると言わない限り、勤められる

常勤の勤務医の場合は、労働者として強く保護されているため、めったなことでは職を失いません。多少遅刻をしたり、日当直を断ったり、管理業務を断る程度では、先生が解雇されるようなことは考えにくいです。事実上、先生の方から退職すると言わない限りは、定年まで勤められる可能性が高いでしょう。医療機関側からすると常勤職員を解雇することは、たとえ問題があるような職員でも非常に難しく、逆に労働者からすればよっぽどのことがないと首にはならないと言えます。

安定した収入はありがたい

安定した仕事を確保できるということは、本当に大きいです。毎月確実に一定の給与が振り込まれる安心感、ありがたさは、それが当たり前のうちはなかなか実感出来ませんでした。むしろ忙しい割に給与が少ない、割に合わないなどと愚痴をこぼすこともあったくらいです。

常勤を離れると、非常勤よりも確かに実入りが良くなりますが、これがいつまで続くかはわからないという漠然とした不安はあります。常勤のように定期的な昇給もなく、また貰った給与の中から、税金等の支払い分も自分で管理しなければなりません。

常勤、非常勤、メリット、デメリットはそれぞれ

普段はどちらかといえば非常勤のメリットを上げることが多い、当サイトですが、当然常勤にもメリットがあります。本当にどちらかが優れているとは考えておらず、先生の好み、考え方によると思います。

給与や、臨床以外の仕事など様々な要素を考慮しても、やはり安定を重視したい先生には常勤の方が向くと思いますし、毎日同じ職場に行くことが苦痛で、比較的変化やリスクがある環境の方が好きな先生には非常勤の方が向くと思います。

どちらかが良い、悪いのではなく、先生にとってマッチするかどうかという問題であり、不幸なのは先生のスタイルと、仕事環境が合わない状況です。これでは仕事が苦痛になってしまいます。安定した環境で能力を発揮できる先生もいれば、変化がある環境でないと生きづらい先生も見えます。どうか先生にとってやりやすい、働きやすい仕事環境を選んで頂ければと思います。

もし今の状況に思うところがある場合は、思い切って環境を変えるのも手

常勤の先生で、もし今の環境に思うところがある先生は、思い切って非常勤の勤務を経験してみるのも良いと思います。なんだかんだご自身で経験してみないことには、わからないこともあります。非常勤の勤務をたとえば2−3年、期間を決めて経験してみるのも良いと思います。やってみて合わなければ常勤に戻れば良いですし、もし非常勤が思った以上に先生に合えば、そのスタイルを続けてみるのもアリです。
もちろん場合によっては、もとの常勤のような環境には戻れないかもしれませんが、非常勤の経験は決して無駄にはならないと思います。

逆に非常勤の勤務をしている先生が、やはり常勤の方が良かったとお考えの先生は、常勤の勤務に戻るのも良いと思います。非常勤の勤務を経験した上で、常勤のほうがメリットが大きいとお考えの先生は、常勤に戻った後も、次の職場を別の視点で見られるようになっています。非常勤の経験は、決して無駄にならず、かならず常勤の職場でも活かせるはずです。

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