自由診療に振り切ることはどうか?

先生の中には、転職を機に、保険診療から自由診療に移行することを考えたり、一部自由診療の業務を取り入れることを考える先生もいらっしゃると思います。求人情報をみていると自由診療の領域の方が、給与や待遇も良いです。当直やオンコールなどもありません。それならばいっそ、自由診療にすべての労働力を割いた方がよいのではないかと考えられます。
今回は自由診療に振り切るべきか?またそのリスクについて解説していきます。

結論から言うと、保険診療も一部残しておいたほうが無難と思われる。

結論としては、多くの先生にとっては、自由診療一本に振り切ることは、おすすめできません。保険診療の能力を残しておいた方が、将来的なリスクヘッジとして、無難であると思われます。

初期研修直後に自由診療にいくか? 保険診療で経験を積んでから自由診療に切り替えるか?

自由診療の業務を行う場合、初期研修が終わってすぐに自由診療の領域に行くか、保険診療である程度キャリアを積んだあとに自由診療に切り替えるかで、考え方が異なります。以下で場合分けして、それぞれで考えて行きます。

初期研修直後に自由診療に行くケース

初期研修後に、保険診療を経由せずに、自由診療に振り切ることは、けっこうリスクが高めです。チャレンジャー気質の先生にはよいですが、万人受けする方法ではありません。なにか想定外のことが起きた場合、一気に職を失い、潰しが効きにくくなる危険性があります。このケースでも、比較的研修制度がしっかりしている大手美容外科等に就職するケースと、単純に問診や美容注射などのみでスキルアップができないケースに分けて考えてみます。

大手美容外科等に就職するケース

テレビCM等でも大々的に宣伝している、一部の大手美容外科は、初期研修直後の先生も積極的に採用しており、研修制度も設けています。従来、美容外科の先生は、保険診療の形成外科で経験を積んでから美容に転向するケースが一般的でしたが、最近は最初から美容外科に就職する先生も多いです。

私はこちらについては詳しくないので、詳細な情報は提供できないのですが、もしこちらの道を歩まれる先生は、よくよく事前に確認して、見学にも行き、本当にスキルアップが望めるかどうか、よく検討されることをオススメします。美容業界は、非常にきちんとしていて、真面目に行っている医療機関もあれば、かなりブラックなところもあります。保険診療と異なり、売上のノルマがあったり、先生自身が広告塔になって、SNS等で発信することを求められるケースも少なくありません。先生自身も若くきれいにみられるように、外見に気を使う必要もあります。外から見ていると華やかな世界に見えますが、内情はいろいろ大変なこともあるようです。

問診業務中心の場合

問診が中心の場合、特に初期研修直後から、問診に振り切る場合は、スキルアップという面ではかなり厳しいものがあります。たとえば5年後に、問診関連の仕事が無くなったり、待遇が悪くなった際に、他に切り替えることが困難になります。下手したら仕事を全て失ってしまうリスクがあります。他に事業を持っていて、問診業務の合間に事務仕事をしたい先生や、数年で資金を稼いで逃げ切るビジョンがある先生には、いいかもしれませんが、それでもリスクは高めです。

やり直しも可能だが、結構大変ではある

初期研修直後に、脱毛クリニックに常勤で就職した知人の先生の例をご紹介してみます。
仮にA先生としてみます。

A先生は、もともと初期研修が終わったら、脱毛クリニックに就職するというビジョンを持っていたそうです。(理由は聞けなかったのでわかりません。)そのため、3年目も特に普通の臨床を行う予定がなかったので、初期研修かなり緩めで、悪いく言えばほとんどなにもやらなくても卒業させてくれる病院で研修し、その後、大手美容皮膚科で脱毛問診を中心に行っていたようです。しかし数年もすると飽きがきますし、このままでいいのかという将来の不安や、また美容業界特有のブラックな面にも嫌気が差してきたとのことでした。その先生は管理医師として常勤で某分院で勤務されていました。幸いにして、退職時に揉めたり、辞めさせてもらえなかったりというトラブルは無かったようですが、秘密保持の書類にはサインをしなければならなかったようです。(当然詳細は私もは伺うことが出来ません。)

その後色々考えられた結果、保険診療に戻ることになり、同じ病院で数年一緒に働きました。元々優秀な先生でしたので、はたから見ると特に問題なく診療をされていましたが、本人としてはやはり元の仕事とのギャップや、最初は研修医と同じような業務からスタートを切ることで、結構辛かったようです。

保険診療で経験を積んでから自由診療に切り替える

保険診療でキャリアがある先生は、自由診療に切り替える場合でも、リスクは低めです。いざとなれば保険診療の世界に戻ればいいからです。このケースの先生の場合、保険診療は一切やめて、自由診療に振り切るケースと、保険診療と併用して自由診療を行うケースで考えてみます。

自由診療に振り切るケース

自由診療に振り切るケースでは、保険診療から完全に離れることになります。数年であれば、復帰にそう問題はないと思いますが、たとえば10年単位で離れてしまうと、さすがにもとの診療科にもどるのは少しハードルがあります。もし少しでも保険診療に戻る可能性がある場合は、保険診療も併用するケースを想定するほうが無難です。

自由診療に振り切るケースは、将来のビジョンが明確な先生が適すると思います。たとえば、10年間自由診療の業務に集中して、金融資産を1億円貯めて、その後はセミリタイアをする!というような先生には、保険診療の併用は、逆に遠回りになるだけかもしれません。また自分の会社を持っているなど、医療以外のビジネスをしている先生にとっては、問診業務は空き時間が多いので、その間にご自身の事業の仕事をするという、割り切りができる先生にも良いと思います。

または、外科系の先生が、スキルアップも兼ねて美容外科に転科する場合は、もともと外科のスキルがあり、それを美容医療でも活かすことが可能ですし、手技も継続して行うことができるので、自由診療に振り切ってしまってもスキル的には問題ないと思います。もし自由診療が合わなければ、戻ればいいだけです。

管理医師は要注意!

自由診療に振り切るケースでは、常勤の就職も視野に入れていると思います。自由診療の場合、大手の美容外科などでなければ、基本的に常勤医師=管理医師(院長)であることが多いです。実際の立場としては、雇われ院長なので、勤務医とかわらないように思われがちですが、社会的にはかなりの責任を負う立場になります。その医療機関の管理者という立場に名目上でもなるため、なにか起きた場合、先生に責任が降りかかる可能性がある。管理医師の注意点はこちらも参考にして下さい。(参考記事→院長(管理医師)の注意点

保険診療と併用して自由診療を行うケース

たとえば内科系の先生が週1は保険診療の外来を継続して、週4で自由診療を行うケースです。この場合は、自由診療で高給を得て、保険診療でリスクヘッジをしつつ、何か問題があれば保険診療にスムーズに戻ることができます。リスクヘッジを行った、勤務形態です。保険診療に戻る場合も、週1でも併行して行っていれば、たとえば常勤の保険診療に戻ることを希望する場合も、比較的戻りやすいです。専門医の単位更新も診療科にもよりますが、現実的でしょう。

しかしその分、自由診療に振り切った場合より収入の爆発力は劣る可能性が高いです。その場合は保険診療を単価の高い訪問診療や、夜診までやっている勤務時間の長い求人を選ぶことでカバーすることが可能です。

自由診療をメインにする場合は、こちらの保険診療を併用する戦略が、多くの先生に向くと私は思います。先は読めないので、医師として長く働くことを想定する場合は、リスク管理が大切です。

※隠れた問診業務のリスク

自由診療で手技がある世界はいいですが、問診業務の場合は、多くの先生は遠からず飽きます。現在忙しい環境で働かれている先生も多いと思うので、おそらく想像できないかと思いますが、問診業務は想像以上にヒマで、多くの先生が時間を持て余します。これが結構曲者で、業務中にヒマというのは想像以上にツライです。簡単な業務で、空き時間も自由に過ごせて、しかも給与も良いという、一見すると夢のような仕事環境に思えますが、そのような環境でも一定数の先生が去っていきます。ヒマというのは想像以上に人間を蝕むようです。特に今までハードワークだった先生は、反動で抜け殻のようになってしまいがちです。問診業務を行う先生は、なにか業務中に集中してできる仕事や趣味を持っていないと、別の意味で辛いかもしれません。

では自分ならどうするか?と聞かれたら?

もし私が大学卒業直後に時間を巻き戻せるなら?という観点で、自由診療の業務を行う場合について考えてみます。これは参考程度に読んでみてください。

まず初期研修を終えた後、3年の最短で取得可能なプライマリ・ケア学会の専門医(家庭医療専門医、現在なら総合診療専門医)の取得をめざします。これで保険診療が可能な能力を身に着け、資格も取得し、リスクヘッジとします。3年間は勉強期間と割り切り、低賃金でもやむなしとして我慢します。

その後 週1で訪問診療の業務を行いつつ、保険診療の能力維持と高給を確保します。同時に、週4で自由診療業務を行います。自由診療もあえて常勤ではなく、非常勤を掛け持ちします。自由診療は脱毛クリニックやAGAなど問診を中心として、空き時間が多く、高給を確保できる仕事をチョイスします。同時にマイクロ法人を設立し、社会保険料の削減を行います。自習診療業務の空き時間に、パソコン上でできる、法人の仕事をつくって、集中して行います。空き時間も暇にならないように工夫をします。

週5回の勤務で、日給は9万円を想定します。月に20日勤務で月収180万円、年収2160万円を目指します。細かいことですが、有給休暇も取得してその日にスポット勤務で他の仕事も併行して行います。

生活費は極限まで削り、年間1000万円以上を種銭として確保します。そしてその全てを、全世界株式ETF(VT)+米国株ETF(VOO、VTI)+米国高配当ETF(VYM HDV SPYD)に分散投資を行います。これらの投資先であれば、時間をかければ大きくお金を失う可能性は極めて低く、むしろ20年以上の長期的視点でみれば、勝てる可能性が圧倒的に高いです。

この戦術で5年も続ければ、投資総額は5000万円以上、この時期であれば金融資産としては1億近くになっていた可能性が高いです。30歳台で、ここまでの資産形成に成功すれば、あとは勝ったも同然です。週5勤務を減らして週3-4にダウンシフトしていってもいいですし、体力が続く限り仕事を続けて、さらに資産を拡大していってもいいでしょう。資産が一度数千万円台になると後は急速に拡大していきます。

ちなみに私はFXや不動産や他の投機性の高い投資は一切おこないません。勝てる気がしないためです。基本はインデックスファンドで、高配当株も個別株では行わず、広く分散されたETFしか買いません。一度よくわからない投資で痛い目をみたことがあるためです。

私が何年もかけて、集めた知識、医師の仕事の経験を、お金という面で最適化すると、一つの医者の生き方のモデルにはなるのかと思います。もし上記のことができていたら、私は今ごろ億単位の資産をもつ、準富裕層だったかもしれません。ただ人生はなかなか、思うようにうまくいかないものです(笑)。むずかしいですね。