雇われる側の立場としての非常勤 対策編

非常勤という働き方には、いくつかのリスクが伴うことを以前の記事でも取り上げました。今回は、そのリスクに対してどのような備えをしておくべきか、具体的な対策という視点から考えてみたいと思います。すでに勤務先を複数に分散させるなど、基本的なリスクヘッジの考え方については以前ご紹介しましたが、今回はそれに加えて、もう少し広い意味での「戦略的な対策」にも踏み込んで整理してみたいと思います。

非常勤という働き方は、自由度が高い一方で、制度的な保障や安定の面ではどうしても弱い部分があります。ですから、何か問題が生じたときに慌てないように、あらかじめ「もしも」の状況を想定しながら仕組みを整えておくことが重要です。特に、お金や働き方の分散、人との関係性といった要素は、いざというときに大きな差となって表れます。今回の記事では、そうした非常勤医師としてのリスクを現実的にどう補っていくか、その具体策について考えていきます。

お金の対策を取る

少し現実的で寂しい話ではありますが、非常勤勤務において最も困るのは、やはり「お金の問題」だと思います。万が一の事態――たとえば、一時的に働けなくなってしまう、体調を崩してしまう、ご家族の事情で仕事を離れざるを得ない――そうした状況は、誰にでも起こり得ます。そして、そうしたときに最も影響を受けるのが、収入という現実的な部分です。

非常勤という働き方にはさまざまなリスクがありますが、冷静に見れば、その多くは「お金があれば解決できる問題」と言えるかもしれません。もちろん、ご自身の健康だけはお金では解決できませんが、それ以外の多くのトラブル――生活費、家計、時間的な余裕など――は、経済的な備えによってかなりの部分をカバーできます。

したがって、常勤勤務の先生以上に、非常勤で働く先生ほど「お金に対してシビアな視点を持ち、自ら対策を講じておくこと」が大切になります。制度的に守られにくい分、個人としての備えが安心の支えになる。非常勤という働き方を選ぶ以上、そこを意識しておくことが極めて重要だと思います。

具体的な対策

お金に関する備え方は本来、この記事ひとつで語り尽くせるようなものではありません。状況や価値観によって取るべき方策はさまざまですが、ここではあえて、非常勤として働く先生方にとって現実的で効果の大きい二つの対策に絞ってお話ししたいと思います。すなわち、一定の現金を確保しておくこと、そして給与以外の収入源を持っておくことです。

まず現金の確保についてですが、これはいわゆる「生活防衛資金」と呼ばれるものです。突然の収入途絶に備えて、最低でも半年分、できれば一年分の生活費を現金として確保しておくことをおすすめします。たとえば、毎月の生活費が50万円だとすると、300万円あれば半年はしのげますし、600万円あれば1年間は働かなくても生活を維持できる計算になります。非常勤という働き方は安定収入の保証がないため、こうした資金を持っているかどうかが、精神的な安心にも大きく関わってきます。

もっとも、このような資金は貯金を切り崩して使うことになるため、長期的に見れば不安も伴います。そこで次に大切になるのが、給与以外の安定した収入源を持つということです。医師にとって比較的手軽で現実的な方法として挙げられるのが、**高配当ETF(上場投資信託)**の活用です。ETFは複数の銘柄を組み合わせた“詰め合わせパック”のようなもので、個別株を選ぶリスクを避けながら、一定の分配金を得られるのが特徴です。

特に有名で王道とされるのが「VYM」や「HDV」といった米国の高配当ETFです。これらは分散が効いており、経費率も比較的低いため、手間をかけずに長期的な資産形成を進めやすい商品です。年4回の分配金が定期的に支払われるため、給与とは別に小さくても安定的な現金収入が得られるという安心感があります。こうした仕組みを少しずつ積み上げていくことで、老後資金の備えにもなりますし、日常的な経済的不安も軽減されていきます。

一定の現金を確保しつつ、少しずつ配当を得られる資産を築いていく。この二つの組み合わせが、非常勤という働き方における経済的リスクを和らげるうえで、最も現実的で持続可能な対策だと私は考えています。

高配当ETF

私自身のケースをお話しすれば、主にVYMを保有しています。分散のバランスが良く、経費率も低く、長期投資の観点から見ても王道で安心感のある選択肢だからです。少しでも給与以外に収入があるというのは、精神的な安定にもつながります。時間を味方につけて積み立てを続けていけば、そこから得られる分配金は徐々に増え、将来的には生活を支えるもう一つの柱になっていく感覚が得られるはずです。

極端な話をすれば、その分配金だけで生活費をまかなえるようになれば、もはや「働かなくても生活できる」という、いわゆる**経済的自立(Financial Independence)**の状態になります。現実的には、医師の場合は生活コストが高く、分配金だけで完全に生活を支えるには長い道のりが必要かもしれません。しかし、100%でなくとも、一部でも生活費を補えるようになれば、それだけで大きな安心感につながります。たとえ10%であっても、毎月の支出の一部が自動的にカバーされるというのは、気持ちの上で非常に大きな違いです。

この方法の魅力は、何よりも先が見えやすいことです。分配金が定期的に振り込まれるため、成果を「数字」として実感しやすく、モチベーションも維持しやすい。少しずつ資産が増えていく手応えを感じながら、「生活が以前より楽になってきた」と実感できる過程そのものが、非常勤という不安定な働き方を支える精神的な支柱にもなっていくのだと思います。

投資の世界は奥が深い

とはいえ、投資の世界というのは非常に広く、今回ご紹介した方法よりも効率的な手法や、より高い利回りを狙える選択肢も数多く存在します。資産形成の考え方は人それぞれであり、どこまでリスクを取るか、どの程度のリターンを目指すかによって最適解は変わります。したがって、最終的には先生ご自身のスタンスや価値観に合わせて判断することが何よりも大切です。

そのうえで、今回触れた高配当ETFのような方法は、比較的手軽で始めやすく、実践している人も多い、いわば「堅実で失敗しにくい」アプローチだと思います。特別な知識や日々の管理を必要とせず、淡々と積み立てていくだけで少しずつ成果が見える――その意味で、非常勤という働き方のリスクヘッジとして現実的で実用的な方法のひとつと言えるでしょう。私自身も実際にこの方法を取り入れていますが、無理なく続けられる点で非常に相性が良いと感じています。

詐欺が多い

特に注意が必要なのは、投資や資産運用、そして不動産関連の案件です。医師という職業柄、経済的に余裕があると見なされやすく、営業や勧誘のターゲットにされるケースは少なくありません。電話やDM、あるいは知人を介した紹介など、さまざまな形で「有利な投資案件」や「節税を兼ねた不動産運用」といった話が持ちかけられることがあると思います。

しかし、その多くは冷静に見れば、実質的にリスクの高い投資か、あるいは最初から損をさせる前提の“詐欺まがい”の案件です。結果的に資産を増やすどころか、大切なお金を失ってしまう例も少なくありません。どうかこの点だけは、十分に警戒していただきたいと思います。

配偶者によるリスクヘッジ

配偶者の方が働いている場合、それは非常勤医師にとって極めて大きなリスクヘッジになります。非常勤という働き方は、どうしても収入の変動リスクを伴いますが、もし万が一先生ご自身が体調を崩したり、一時的に仕事を離れざるを得なくなったとしても、配偶者に収入があれば、家庭全体の経済的基盤がすぐに崩れることはありません。

貯金を取り崩す必要が出たとしても、その全額を生活費に充てる必要はなくなり、家計の安定が大きく保たれます。それは単なる数字上の安心にとどまらず、精神的な支えとしても非常に大きいものがあります。

良い関係を周囲の人と築いておく

これは必ずしもすべての場面で通用するわけではありませんが、非常勤という立場で働くうえで、周囲との人間関係を良好に保つことは大きなリスクヘッジの一つになると感じています。どれだけ先生ご自身とスタッフの関係が良好でも、経営側の判断によって組織再編や経営上の理由から雇い止めになるケースはあり得ます。そこはどうしても避けようのない領域です。

ただし、日頃から職場での信頼関係を丁寧に築いておくことで、思わぬところで助けてもらえることがあります。たとえば、別の部署や関連施設から新しい勤務先を紹介してもらえたり、契約終了の際にも前向きな形で次の仕事につながったりといったことです。少なくとも、関係が悪化してそれが原因で契約を切られる――という事態は確実に避けられます。

医療の現場では、診療そのものよりもむしろ「人との関係性」が働きやすさを左右することが多いものです。日々のちょっとした言葉づかいや態度、スタッフとの何気ないやり取りの積み重ねが、最終的には「この先生と一緒に働きたい」と思われるかどうかを決めていきます。そうした部分を軽視せず、関係構築もまた一つのリスク対策として意識しておくことが、非常勤という立場で長く安定して働くための重要なポイントになるのではないでしょうか。