雇われる立場としての常勤 メリット編

今回は、雇われる側の立場から、前回からの対比として「常勤勤務」について考えてみたいと思います。常勤勤務は、医師の働き方として最も王道であり、多くの先生方が選んでこられた主流の形です。あらためてその「メリット」という観点から整理してみると、日常の中では見過ごしがちな価値に気づかされる部分があります。

安定性が高い

常勤勤務の最大の特徴は、その安定性の高さにあります。非常勤や他の働き方と比較しないとなかなか実感しにくい点ですが、常勤職はよほどの事情がない限り職を失うことがなく、定年まで継続して勤務できる可能性が極めて高い立場です。事実上、自ら退職を申し出ない限り、雇用が一方的に打ち切られることはほとんどありません。

さらに、労働者としての法的な保護も手厚く、急病で休職したり、家庭環境の事情で一時的に勤務が難しくなったとしても、すぐに職を失うようなことはまずありません。傷病手当金の支給や、休職制度により、職場に籍を残したまま療養、ご家族のケアに専念することができます。こうした制度的な保証の厚さは、常勤勤務ならではの大きな強みといえるでしょう。

普段はあまり意識することのない面ですが、いざというときにその恩恵の大きさを実感することになります。もっとも、このありがたさは実際に常勤を離れて初めてわかる部分でもあり、その点は少し皮肉なところかもしれません。

社会保険料管理が不要

常勤勤務のもう一つの大きな利点は、社会保険に関する負担や手続きの煩雑さから解放される点です。常勤であれば、健康保険や厚生年金といった社会保険料の半額を事業主が負担してくれるうえ、加入や納付の手続き、各種書類の管理といった事務的作業もすべて勤務先が代行してくれます。こちらも日常的には意識しにくいものの、実際に常勤を離れてみると、そのありがたみを強く感じる部分です。

一方で、非常勤やフリーランスとして働く場合には、国民健康保険や国民年金に自ら加入し、全額を自己負担で納付する必要があり、金銭的にも事務的にも負担が大きくなります。常勤であることで、こうした社会保険関連の手間やリスクをすべて任せられるというのは、安定した勤務形態ならではの安心感といえるでしょう。

退職金がもらえる

常勤勤務のもう一つの大きな魅力は、退職金制度が整備されている点です。多くの医療機関では勤続年数に応じた退職金制度が設けられており、何十年も勤務を続ければ、退職時に数千万円規模の金額を受け取れる場合も少なくありません。非常勤の形態では基本的に退職金が支給されないため、この制度は老後の生活資金を支えるうえで非常に心強い存在となります。65歳で定年を迎える際なども、まとまった金額を一度に受け取れることは、経済的な安心感につながるでしょう。

ただし、この退職金制度はすべての職場に共通するものではなく、特に在宅診療クリニックのような小規模医療機関では制度が整っていない場合もあります。そのため、常勤勤務を選ぶ際には、勤務条件として退職金制度の有無を確認しておくことが大切です。

ある程度お任せできる部分が多い

常勤勤務の利点は、上記のようにさまざまな事務的・制度的な面を勤務先に任せられるという点です。社会保険料の納付や老後資金の積み立てなど、個人で行うと煩雑で手間のかかる手続きを職場側が一括して処理してくれるため、医師自身は本業に専念しやすくなります。日々の診療に集中できるという点では、非常に合理的でストレスの少ない環境といえるでしょう。

圧倒的なマジョリティという安心感

常勤勤務は、医師の働き方の中でも最も一般的で、圧倒的な割合を占めています。多くの医師が同じ形で働いているという事実は、それ自体が一種の安心感につながります。身の回りを見渡しても、特別な事情がない限り非常勤やアルバイトのみで生活している医師はごく少数であり、やはり「多数派である」ということが心理的な安定をもたらしているといえます。常勤勤務はその点においても、制度的な安定に加えて、社会的・心理的な安定感を兼ね備えた働き方であるといえるでしょう。

今後もメインである可能性が高い

今後も、医師の働き方の主流は「常勤勤務」であり続けると考えられます。制度面や医療提供体制の構造を踏まえても、常勤医が医療機関の基盤を支えるという仕組み自体は、そう簡単に変わるものではありません。非常勤やスポット勤務といった柔軟な働き方が増えてきたとはいえ、組織運営や患者対応の安定性を確保するうえで、常勤医の存在は不可欠です。そのため、常勤という立場で働くことは、今後も「王道」の中に身を置くことを意味し、制度的にも社会的にも安定したポジションを維持できる働き方であると言えるでしょう。