経験を積んだ医師でも病院見学をしていいのか――転職前に現場を確認することの大切さ
病院見学というと、初期研修先を決める際に行うものという印象が強いかもしれません。実際、医学生の頃には、研修先を決めるために複数の病院を見学した先生も多いのではないでしょうか。なかには5施設どころか10施設ほど見学して、それぞれの教育体制や研修医の雰囲気などを比較しながら、最終的な研修先を決めた先生もいらっしゃると思います。
一方、ある程度の経験年数を経てから転職する場合はどうでしょうか。転職活動のなかで5施設も病院見学をしたという話は、私自身、ほとんど聞いたことがありません。それどころか、面接とは別に事前の病院見学を行うこと自体、省略してしまう先生も少なくないように感じています。研修医の頃には当たり前のように行っていた病院見学ですが、経験を積んだ医師が転職する際にも、同じように見学を申し込んでよいものなのでしょうか。
結論から申し上げれば、私はむしろ積極的に行った方がよいと思います。転職先を真剣に検討しているのであれば、遠慮せずに病院見学を申し込んでいただきたいと思います。
転職時の病院見学は1〜2時間程度でも十分
もっとも、ここでいう病院見学は、研修医の頃に行っていた病院見学とは少し異なります。初期研修先を決めるための見学では、朝から夕方まで研修医の先生について回り、実際にどのような業務をしているのか、指導医との関係はどうなのか、当直ではどのような経験ができるのかといったことを、かなり細かく確認する場合もあると思います。場合によっては丸一日かかることもあり、見学する側にも受け入れる側にも、それなりの負担がかかるものです。
しかし、ある程度の臨床経験を積んだ医師が転職する場合、そこまで詳細な見学をする必要はないと思います。医師としての基本的な仕事の流れはすでに理解しているわけですから、改めて誰かについて一日中業務を見学する必要はありません。病院側も、経験のある医師がそのような見学を希望しているとは、通常は想定していないでしょう。
私が医師の転職における病院見学として想定しているのは、せいぜい1〜2時間程度、長くても半日かからないくらいのものです。これは、専門医資格を取得して何年も経過している先生だけでなく、医師3年目くらいの比較的若い先生にも当てはまると思います。実際に病院へ足を運び、どのような職場なのかを確認し、そこで働く先生方と話をするという程度でも、十分に意味のある見学になるのではないでしょうか。
例えば、最初に事務担当者や採用担当者から、勤務条件や雇用契約に関する説明を受けます。必要であれば、募集要項や契約書面に記載されている内容についても確認しておきます。その後、実際に勤務することになる病棟、救急外来、一般外来などを簡単に案内してもらい、どのような環境で診療することになるのかを見せていただく。そして最後に、入職した場合に同じ診療科で働くことになる先生と、30分程度お話しする機会を設けてもらうという流れです。
この程度の内容であれば、病院見学といってもそれほど大がかりなものではありません。時間だけを考えれば、事前にうまく調整することで、1日に2〜3施設を見学することも不可能ではないでしょう。研修先を決める際の病院見学とは異なり、転職時の病院見学は、もう少し気軽に考えてもよいものだと思います。
最も重要なのは、実際に働いている医師と話すこと
私が病院見学で特に重視したいのは、実際にその病院で勤務している医師と話をする機会です。できれば、入職後に同じ診療科で働くことになり、なおかつ自分と近い立場にある先生と話をさせていただくのがよいと思います。これは見学を申し込む段階で、あらかじめ病院側にお願いしておいてもよいでしょう。(参考記事:入職前に実際に現場の医師に話をきく、実際に働いている先生へのインタビューについて)
事務担当者から説明を受けるだけでも、給与や勤務日数、当直回数などの基本的な条件はある程度確認できます。しかし、実際にその病院で働いている先生がどのような負担を感じているのか、診療科内でどのように役割分担をしているのかといったことは、なかなか書面だけでは分からないものです。病棟や外来を案内していただくことにも意味はありますが、私はむしろ、こうした現場の先生との会話にこそ大きな価値があると思っています。
例えば、当直は実際にどの程度の忙しさなのか、救急対応はどこまで求められるのか、診療科としてどのような強みがあり、反対にどのような部分に課題を抱えているのかといったことです。実際の勤務状況については、できる限り具体的に確認しておいた方がよいでしょう。もちろん、すべてを率直に話してもらえるとは限りませんが、少なくとも何も確認せずに入職するよりは、職場の実情を理解するための材料が増えるはずです。
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病院側がどのような医師を求めているのかを確認する
もう一つ、私が病院見学や面接の際に聞いてみるとよいと思っていることがあります。それは、「こちらの医療機関では、どのような医師を求めていらっしゃるのでしょうか」という質問です。
医師の転職では、給与や勤務日数、当直の有無など、自分が希望する条件を確認することに意識が向きがちです。もちろん、それらは非常に重要なことです。しかし、病院側にも医師を採用する目的があり、どのような仕事を担ってほしいのかという希望があります。そこを十分に確認しないまま入職してしまうと、採用する側とされる側で、仕事に対する認識が食い違ってしまう可能性があります。
例えば、病院側が救急対応のできる医師を求めているのか、それとも病棟管理を中心に担ってほしいのか、外来診療を充実させたいと考えているのかによって、求められる役割は大きく異なります。そこで、自分にはどのような経験があり、どういった仕事であれば力になれるのかを率直に伝えながら、病院側が期待している役割とすり合わせていくわけです。
「私はこういう診療を経験してきましたが、先生方が現在必要とされているのは、どのような役割でしょうか」「私のこれまでの経験で、お役に立てる部分はありますでしょうか」といった形で話を進めてもよいと思います。単に自分の希望を伝えるだけでなく、医療機関側が何を求めているのかを理解し、そのうえで自分に何が提供できるのかを考える。そうした話し合いができれば、病院見学や面接も、形式的なものではなく、お互いにとって意味のある時間になるのではないでしょうか。
無理に自分を売り込む必要はない
病院見学というよりも、実際には面接前の顔合わせ、あるいはプレ面接に近いものになる場合もあると思います。ただ、私は医師の転職において、必要以上に自分を売り込もうとすることは、必ずしもよいことではないと考えています。
一般企業の転職活動では、自分の能力や実績を積極的にアピールし、場合によっては少しでも自分を大きく見せて、内定を獲得することが重視される場面もあるかもしれません。しかし、医師の場合は、少なくとも現時点では、まだ勤務先を選ぶ余地が比較的大きい職業だと思います。もちろん、以前に比べれば医師の転職市場も厳しくなっている面はありますし、地域や診療科、希望する条件によって状況は異なります。それでも、無理をしてまで採用してもらうことだけを目標にする必要はないのではないでしょうか。
例えば、本当は当直をしたくないのに、採用してもらいたいという理由から「当直もできます」と伝えてしまったとします。そうすると、病院側は当然、当直にも対応してもらえる医師だと認識して採用することになります。しかし、実際に入職してから当直が大きな負担になってしまったとしても、病院側からすれば、採用前には対応できると聞いていたという話になってしまいます。結果として、苦しい思いをするのは先生自身かもしれません。
それであれば、最初から「当直は難しいです」「オンコールには対応できません」と率直に伝えた方がよいと思います。その一方で、「外来診療であれば経験があります」「病棟管理は得意です」「これまでこうした疾患や患者さんを多く診てきました」といった、自分が提供できることもきちんと伝えるわけです。もちろん、当直やオンコールができないのであれば、そもそも外来診療を中心とした医療機関など、自分の希望に合った勤務先を探すという選択肢もあります。
大切なのは、自分にできないことや、できれば避けたいことを無理に引き受けるのではなく、得意なことと不得意なことを明確にしたうえで、どこまでお互いに歩み寄れるのかを話し合うことだと思います。病院側が必要としている役割と、自分が無理なく提供できる仕事が一致しているのであれば、それが一番よい形でしょう。
医師の転職では、採用されること自体が最終的な目的ではありません。転職後に無理なく働き、できれば長く勤務を続けられることの方が、はるかに重要だと思います。その意味でも、最初から率直に話をして、お互いの希望や条件を確認しておくことには、大きな意味があると考えています。
入職前にミスマッチが分かることは、病院側にとってもプラス
こうして病院見学や面接で率直に話し合った結果、どうしても条件が合わないということもあると思います。しかし、私はそれならそれでよいのではないかと考えています。お互いに希望が一致しないのであれば、無理に採用を進める必要はありませんし、先生自身も、その医療機関への転職を見送ればよいわけです。
これは、実は病院側にとっても決して悪い話ではありません。というのも、医療機関が医師を採用する際に最も避けたいことの一つが、せっかく採用した医師が短期間で退職してしまうことだからです。
医師を一人採用するためには、それなりの労力がかかります。求人を出し、候補者と面談し、勤務条件を調整して、入職に向けた準備を進めることになります。人材紹介会社を利用していれば、紹介手数料が発生することもあります。それだけの手間と費用をかけて採用した医師が、入職後すぐに辞めてしまうというのは、医療機関側からすれば非常に困る話です。
しかも、医師が退職してしまえば、単に採用にかかった費用が無駄になるだけではありません。予定していた診療体制を維持できなくなるかもしれませんし、残された医師の負担が増えることも考えられます。そうなれば、改めて採用活動を行わなければならず、医療機関にとってはかなり大きな負担になります。
それに比べれば、病院見学に来てもらい、1〜2時間ほど時間をかけて話をした結果、今回はお互いに合わないという結論になったとしても、その損失はそれほど大きなものではありません。もちろん、担当者や現場の医師が対応する時間は必要ですから、まったく負担がないわけではありません。しかし、実際に採用した後に短期間で退職されてしまうことに比べれば、はるかに小さな負担で済むでしょう。
むしろ、入職前の段階で「この先生には、うちの病院の勤務体制は少し合わないかもしれない」「この病院では、自分の希望する働き方は難しそうだ」と分かるのであれば、それはお互いにとってプラスなのだと思います。採用する前にミスマッチを防げたということですから、見学にかけた時間にも十分な意味があったといえるのではないでしょうか。
病院見学は、長く働ける職場を探すための機会
こう考えると、ある程度の経験年数を積んだ医師が病院見学を申し込むことについて、それほど遠慮する必要はないように思います。病院側としても、実際に足を運んで勤務環境を確認しようとする先生に対しては、それだけ真剣に転職を検討してくれているのだと受け止めることが多いのではないでしょうか。
もちろん、質問の仕方や相手への配慮は必要です。しかし、当直の負担や勤務体制、診療科の課題などについて、遠慮しすぎる必要はないと思います。むしろ、入職後に問題になりそうなことほど、事前にきちんと確認しておくべきでしょう。その結果、双方の認識が一致するのであれば安心して転職を進められますし、合わないのであれば、別の医療機関を検討することもできます。
転職活動では、どうしても採用されることや、少しでもよい条件を獲得することに意識が向きがちです。しかし、実際に働き始めてからのことを考えれば、職場環境や人間関係、自分に求められる役割が合っているかどうかも、同じくらい重要です。
病院見学は、単に病院の設備や建物を見に行くためのものではありません。そこで働いている先生方と話をし、医療機関が求めていることを理解したうえで、自分が長く無理なく働ける職場なのかを判断するための機会でもあります。転職を検討している先生には、ぜひこうした病院見学も活用していただければと思います。
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